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視点 オピニオン21
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新島学園中学・高校校長  市川 平治 (高崎市倉渕町)


【略歴】東京農工大大学院修了。14年間の県立高校教諭を経て、家業の林業経営。旧倉渕村議を12年間務め、2002年から4年間、最後の旧倉渕村長。07年から現職。


合唱、合奏の楽しみ



◎「1人1楽器」音色響く



 10月初旬になると、さすがに秋の風が感じられると共に、私にとって楽しみな校内行事の季節となる。教師との打ち合わせや来客のない放課後のひととき、私は、中庭に面した校長室の窓をそっと開けて耳を傾ける。

 今年も11月に開催される、中学部の校内合唱祭の練習が始まった。まだまだこの時期には、各教室から流れる歌声も騒音に近い? と言えるが、私は、その騒音から美しい合唱へと、日増しに整ってくる生徒たちの歌声に心を癒やされる思いがする。

 本学園の伝統行事、中学合唱祭は、中1から中3までの全生徒がクラス対抗で、課題曲と自由曲、2曲の出来栄えを競う。その盛り上がりは感動的でさえある。

 しかし、最初からスムーズに事が運ぶわけではない。何しろ、やんちゃ娘とわんぱく坊主の集まりである。練習計画のトラブルはもちろん、部活を優先して練習を抜け出す者、宿題を忘れて補習に呼び出される者等々、パート練習さえままならぬ日も珍しくはない。

 そして、そんな日々を重ねながら、着実にクラスがまとまっていく過程と、本番での素晴らしいハーモニーは、生徒たちの成長の証しとして、私たち教師や見学に訪れる保護者に深い感銘を与えてくれるのである。

 仲間と協調しつつ、自己の役目と責任を果たしていく、合唱の教育効果は計り知れない。本学園の例に限らず、教育活動に合唱や合奏を取り入れている学校は数多いが、音楽教育への積極的な取り組みは、いじめや非行とは次元の違うものであり、人間形成に大きな役割を果たすものと思う。

 ところで、私にはもう一つ、合奏にまつわる思い入れがある。それは9年ほど前の倉渕村時代のこと、倉渕出身で東京での事業に成功したある篤志家が「倉渕中学のために」と言って1億円を寄付してくださったのである。

 私たちは、その一部を使って全校生徒に行きわたる数の、本格的な楽器を買うことにした。当時から倉渕中学は、全校生徒130人ほどの小規模校であったから、小規模校だからこそ可能なことは何か、と考えたのである。その結果、全校合奏ということになった。

 また、情操教育の面からも、倉渕中学の生徒は誰でも、何か一つ本格的な楽器を演奏できるようにしたい、という思いもあった。そして、「一人一楽器」と名付けた全校合奏の活動は、今なお、倉渕中学で継続されていると聞く。

 いずれ私も地元に帰る日が来よう。その時、倉渕中学の全校合奏を聴くことを心から楽しみにしている。

 倉渕中学の皆さん。全校合奏の練習の時、校舎の脇に、ヘンなおじさんが乗って、窓を開けた軽トラが止まっていても、決して怪しまないでいただきたい。







(上毛新聞 2012年10月8日掲載)