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視点 オピニオン21
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帝国データバンク太田支店長  西村 泰典 (太田市飯田町)


【略歴】宮城県塩釜市生まれ、東京都大田区育ち。神奈川大卒業後、帝国データバンク入社。業務部や人事部、調査部、広島支店情報部長などを経て2011年3月から現職。


中小企業の事業承継



◎問題先送りせず準備を



 日経平均が2週間ぶりに9千円を割り込んだと愚痴をこぼす社長。どうやら株式投資を行っている銘柄の株価が下がっているらしい。「今日の株価はいくらですか」と尋ねると、間髪入れずに1円単位まで答えが返ってくる。

 上場会社の株価の話は証券会社の人に任せるとして、仕事柄、大きなお世話かもと思いつつ、こんな時はなるべく自社株の話を振ることにしている。「ちなみに、社長の会社の株価はいくらですか」と。なぜなら、社長の持ち株の中で、もっとも関心を寄せるべきは自社株の評価額のはずだからだ。

 経験的には、お互い真顔であらためて顔を見合わすことになるのだが、「大丈夫、ちゃんとわかっているよ」という社長は案外少なく、「そういえば考えたこともなかった」「気にはしているけど…」と、結局よくわからないという答えが返ってくることが多い。百戦錬磨の社長も、自分の足元は案外はっきりと見えていないものだ。そんな時は、弊社や税理士の先生を使って一度株価を確認してみませんか、と声をかけることにしている。

 中小企業の経営者が、会社を次の世代にどうバトンタッチしていくのかという事業承継の問題を考える時、自社の株価を知ることは、後継者への引き継ぎ方をどうするかというさまざまな問題に向き合うことにつながっている。例えば、優良な中小企業の株式評価額は思っている以上に高額となる場合も多く、少なくとも税金対策に頭を悩ませることになる。なにせ日本には「相続が3代続くと財産がなくなる」という言葉があるくらいなのだから。

 実際の評価額を目の前に提示すると、経営者の血が騒ぐのか、後継者は、経営権は、相続税は、納税資金は、争族対策は、売却したらなどと、具体的に考えてみるきっかけになるようだ。

 弊社の調べでは、県内企業の社長の平均年齢は59歳8カ月と年々高まってきている。しかも、3分の2の企業で後継者が決まっていない。加えて、およそ半数の会社は、現在の社長が創業者であり、事業承継の経験がないことも問題を先送りにしている要因のひとつだろう。実際に2011年に県内で社長の交代が確認できた企業は489人、社長交代率はわずか2・07%と世代交代は遅れている。

 東日本大震災・過去最高水準の円高・中国での反日デモなど、目の前の課題に目を奪われがちだが、水面下では中小企業の事業承継という大きな問題が確実に深刻化している。問題を先送りすることにより企業活力が損なわれないよう、綿密な準備をすることが必要だ。





(上毛新聞 2012年10月11日掲載)