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視点 オピニオン21
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和紙ちぎり絵作家  森住 ゆき (埼玉県熊谷市)


【略歴】桐生市新里町出身。1984年偕成社「絵本とおはなし新人賞」、85年群馬県文学賞児童文学部門受賞。著書に『アメイジング・グレイス』『ぶどうの気持ち』。



植物の力宿る手漉き紙



◎大胆な発想で使って



 「和紙ちぎり絵をやっています」と言うと、日本的で古風な絵柄を想像なさる方が多いようです。始めたころは、そんなイメージを置き去りにするものを制作したい、と思っていました。何年たっても進歩がないのですが、それでも「えっ、これがちぎり絵ですか!?」と原画を見た方に驚いてもらえた時はうれしいです。

 和紙の素材を生かすことを最優先しつつ、しかしそれにこだわりすぎて硬直しないように、と心がけてきました。パステル、色鉛筆、アクリル、エアブラシなども使いようによっては和紙となじむ有り難い画材です。これからも、よい意味で、見てくださる方を軽やかに裏切ってゆけるような作品を生み出したいと願っています。

 和紙をゆっくりちぎると、植物ならではの優美であたたかみのある繊維が現れます。ちぎり絵のいのちは、その優しくて柔らかい繊維に宿っています。手漉 すき紙には理屈抜きで見る方々に、あたたかい印象を与える力が備わっていると思います。おかげで、制作者の私までもが優しいヒトだと勘違いされることがたまにあります。大誤解です。でも、ずいぶんお得なことよと思います。

 はがきやカードに和紙で一片の葉や花びらの形が貼られているだけで、特別な印象を残せることがあります。グラデーション系の「茜(あかね)染め」や全紙大の「江戸千代紙」などは使い方次第でダイナミックなタペストリー(壁掛け)になりうるものが多くあります。また近年は大ぶりの植物の葉や花びらが、ほぼそのまま漉き込まれて、匂い立つような野趣を感じさせるものや、ポップでカワイイものも比較的安価で出回っています。

 私は都内や埼玉県小川町の専門店で和紙を調達しているのですが、群馬では郊外型ホームセンターの一角でも、画材や文具等と同じフロアで手漉き和紙が売られているのを見かけます。ただ残念なことに、多くは積み重ねたり、丸めたりの状態で、その表情があまり見えません。もったいないことです。趣向をこらして生み出された手漉き紙は、一枚一枚が職人のオリジナリティーの宝庫なので、ぜひ一度広げてお確かめください。もしかしたら、その新しい使い道にひらめきを得るかもしれません。

 以前、テレビ番組「徹子の部屋」に、大動脈乖離(かいり)という大病を乗り越えたタレントの加藤茶さんが出演され、ご自分の胸部をさして「僕のここには和紙でできた管が埋め込んであるんですよ」とおっしゃっていました。服飾やインテリアや工業製品のみならず、先進医療の素材までとは驚きました。和紙の多様な可能性をあらためて感じます。斬新、かつ大胆な発想でこれからも新しい和紙が生み出され、それを暮らしに取り入れて楽しむ方が多くいてくださるといいなと願っています。





(上毛新聞 2012年10月12日掲載)