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視点 オピニオン21
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県立自然史博物館学芸員  姉崎 智子 (富岡市上黒岩)


【略歴】神奈川県出身。慶応大大学院博士課程修了。史学博士。京都大霊長類研究所研究員などを経て、2005年4月から現職。専門は野生動物の保護管理。



「知を高める」施設



◎根幹支える調査・研究



 「野生鳥獣行政は組織管理と同じで、ビルの管理に似ている。一歩引いたところから、配管の水の流れによどみがないか、詰まりがないかなど、全体を見渡し、異常がみつかったら、利用者が気づく前に正常化の手配を行う。異常や破損、老朽化した部品は、細心の注意を払って速やかに入れ替える。常に主体は利用者だよ」「その中で、博物館が担う役割は、基礎図面の作成・更新と問題箇所の洗い出しだね」

 群馬に来て8年。兵庫と島根にいる師匠の指導を胸に、関係各所と連携しながら、県内における野生鳥獣の生息状況に関する基礎データの蓄積に努めてきました。

 県内のどこで、何が、どのようになっているのかを把握するために、県の自然保護指導員、鳥獣保護員、地元の猟友会、現場対応にあたる市町村や県の担当者、市民団体や地域の方々など、実にたくさんの方々がご協力くださっています。私たちは、地元の方々の目を通して、群馬の自然を記録し続けていると言えるかもしれません。

 また、野生動物の生息状況を科学的に把握するためには、野外調査の他に、動物の死亡年齢や食性、繁殖状況などを調べるための検体分析も欠かせません。炎天下の猛暑日、極寒の真冬日など厳しい環境下ご尽力くださり、クマ、カモシカ、サル等の検体をご提供くださる皆さまのおかげで、これらの基礎データも充実してきました。

 一方で「いつまで見せ物小屋なんだ。博物館は調査・研究機関じゃないのか」といったご批判も、いまだにいただきます。私たちの努力が足りないのでしょう。ただ自然史標本を並べているだけの施設から、「知を広め」、利用者とのインターアクティブな活動が求められる博物館へと、時代のニーズは変化しています。しかし、いつの時代も博物館の根幹を支えているのは、調査・研究です。例えるなら、調査は「木の根」、研究は「木の幹」、教育普及は「葉」。根や幹が脆弱(ぜいじゃく)であれば、木は育ちません。

 当館で、その根幹を専門職とともに支えているのは、職員の過半数を占める教員籍の先生です。教育のプロとして歩んできたそれまでの人生から一転、博物館に着任し、未知の分野を担当し、すぐにでも専門家となることが求められる、挑戦的な職場です。

 「館職員として、担当する業務を行う時間を与えられている。長くいれば、それだけ時間の蓄積があるのだから、業務をこなせて当たり前。長くいる者ほど、もっと向上していて当然じゃないか?」とは、上司の言葉。

 時を重ね、積み上げてきた専門性が教育と結び合ったとき、大きな葉を広げ、「知を高める」県施設として唯一無二の存在になれるのではないでしょうか。常に真摯(しんし)に博物館の未来を見据えながら、あるべき姿を模索する日々が続いています。






(上毛新聞 2012年10月14日掲載)