,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
元・東北大大学院助教授  高橋 かず子 (甘楽町小幡)


【略歴】東北大大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。東北大で機能性有機化合物の開発研究に取り組む。1997年から甘楽町のかんらふるさと大使。


徳育、しつけの欠如



◎本当の人づくり教育を



 文部省の発表によると2011年度の全国のいじめ件数は7万231件、生徒の自殺は200人であり、いじめ問題は今日の教育界の最大の問題です。しかしこの問題は小中一貫教育とか少人数学級制というような小手先の技術論では解決できない根深い原因があると思われます。

 明治時代から戦前までの教育の基本であった教育勅語には「国を愛し、父母には孝、兄弟仲良く、夫婦仲睦(むつ)まじく、友達とは互いに信じ合い、知能を啓発し、徳と才能を磨き、世の為(ため)人の為に尽くし」とあります。しかし、戦後の教育基本法では、教育勅語の中の上記の徳育の部分がばっさり抜け落ち、欧米流の知識重点主義が持ちこまれました。その結果、学歴社会を生み、生徒に優越感や劣等感を抱かせ、生徒の心に不安やひずみが生じ、これが今日のいじめの原因となっていると思われます。06年にこの教育基本法は改正されましたが、「道徳心を培う」という一言が加えられたものの、徳育に関する表現は極めて消極的です。

 わが国の戦前の教育は儒教的な道徳思想に基づいたもので、日本人の国民性に合致しており、国民の心に深く浸透していました。しかし、戦後の教育は欧米流の合理性や能率重視の個人主義思想から出発した理念であり、日本人にとっては異文化であり、日本の国民性になじまないことが今日のいじめや自殺という深刻な社会問題を生み出した原因の一つと思われます。

 さらに立派な人間を育てるために重要なのが0歳からの家庭教育です。脳科学者や精神科医によりますと、乳幼児はこの世に生まれ落ちてから直ちに自分を取り巻く雰囲気を敏感に感じ取り、その環境に応じてその子の心が形成され、その影響は一生涯を通じて働き続けるそうです。乳幼児の脳は無限の可能性を秘めており、正しい型にはめれば正しく、誤った型にはめれば誤った方向に進み、その人の性格として一生涯、影響するのです。従って、人間教育の出発点は0歳からの母と子の絆であり、母親の胸の温もりが乳児の心の栄養となり、母と子のスキンシップが極めて重要で、母親の教育態度によって子どもの心が形成されるのです。

 さらに、2、3歳ごろには他の人間と共存するための社会性を身につけるためのしつけを家庭で根気よく教える必要があり、この時期を逃がすとしつけが非常にしにくくなるのです。しかし、現状は母親の職場進出、核家族化、少子化等のため、祖父母や兄弟からしつけを教わる機会も少なく、放任されがちです。このように家庭教育がなおざりにされてきたことも今日の深刻ないじめの原因と思われます。理想や精神を失った民族は滅びると言われます。今こそ、真の人間づくりのための教育に向けて国を挙げて前進すべき時と思います。






(上毛新聞 2012年10月19日掲載)