,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
仏師  関 侊雲 (前橋市六供町)


【略歴】農大二高卒業後、富山県南砺市の仏師、斉藤侊琳さんに弟子入り。10カ所で教室を開設。著書に『彫刻刀で作る仏像』(スタジオタッククリエイティブ)など。


出会いと成長



◎無心になって事に臨む



 私はこれまでの人生、数えきれないほど大勢の方々にあらゆることを教えられ、支えられて歩んでくることができました。保育園の先生からはたくさんの自然と触れ合いながら個性を大切に生きていくことを教わりました。小学校の先生は個性的になりすぎた私に、我慢することや協調性を説いてくれました。中学校の先生からは人生について、現実の厳しさと真剣さを学び、高校の先生からは大人になる心構えを教えてもらいました。また、その間に出会った先輩や友人には友情や教訓を、野球やテニス、ヨットでお世話になった監督や顧問、コーチからは、何かに臨むときの鍛錬の大切さや結果を受け止めるいさぎよさを教えていただきました。

 人生は人と出会い、別れる中で、たくさんの喜びや悲しみを感じ、感謝や後悔を繰り返しながら成長していくのだと実感しています。ですから、現在関わりのある方々やこれから出会う方々との時間をより大切に過ごしていくことが、私自身が成長していくために最も重要なことだと考えています。

 彫刻を通じてもたくさんの素晴らしい方々との出会いがありました。その中でも「千の風になって」で有名なテノール歌手の秋川雅史さんとの出会いは私にとって大変素晴らしいものになっています。私が東京都目黒区で開いている仏像彫刻・木彫刻教室に秋川さんが訪ねてこられたのは約2年前のことでした。大変驚きましたが、話をお聞きしたところ、子どものころから木彫刻に興味をお持ちで、ぜひ本格的な木彫刻作品を制作したいというご希望でした。

 以来、ご指導させていただいていますが、制作中の姿は人並みはずれた集中力で、やはり一流を極めた方の何かに取り組む気迫はすごいものだと感じています。先日、秋川さんに「『千の風になって』をはじめ、どんな思いで歌っていらっしゃるのですか」と質問したところ「無心で歌っています。詩に感情が入ってしまうとお聴きいただいている方との間に距離感ができてしまいます」との答えが返ってきました。

 私はこの話をお聞きし、以前、師匠から「心を落ち着けて無心になって彫りなさい」と教えられたことがよみがえってきました。後日、秋川さんも「歌を無心で歌うことと彫刻を無心で彫ることには素晴らしい共通性がたくさんあります」と話していました。

 私は、仕事を習得するということは人生同様に多くの人たちの支えがなければ実現できないと考えています。ですから仕事とは自身の夢をかなえるものであるのと同時に、社会へ恩返しをしなければならないと思っています。今後どのような貢献ができるのか仏師という道に精進していきたいと思います。






(上毛新聞 2012年10月21日掲載)