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視点 オピニオン21
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iikarakan/片品生活塾主宰  桐山 三智子 (片品村菅沼)


【略歴】横浜市生まれ。東京都内の雑貨店勤務後、田舎暮らしを求めて2005年に片品村に移住。自然農法に取り組み、炭 アクセサリー作家としても活動する。


新しい生き方



◎人のつながりを大切に



 「農村で新しい生き方を切り開いていきたい」。縁もゆかりもないこの村に飛び込み9年。自然農法で野菜を作り、炭焼きの手伝いからひらめいた炭アクセサリーを販売、味 み噌 そを仕込み、冬はレンタルスキー・スノーボードショップを営業。いくつかの仕事をつくり、農村暮らしに興味のある若者を受け入れてきた。そういった経験を雑誌のコラムに書く。講演にも呼ばれるようになった。今年は村で出会った男性と結婚。たくさんの人の助けがあって牛小屋の廃屋を改修し、新しい拠点も完成した。

 私が今こうして暮らしを築いていけるのはたくさんの「人」のおかげだ。お金は十分にないけれど、私にとって「人」こそが財産である。農村での暮らしで一番大切なのは「人」とのつながりなのではないだろうか。それに気づいてから、いつも身近で支えてくれる村の人たちや縁あって出会った大切な仲間たちを招待し、顔を合わせ「ありがとう」を伝える「感謝祭」を10月の第2日曜日に開催している。6年前は50人の参加者だったが、今年は全国から140人もの人が片品村に集まってくれた。大切な仲間たちが全国に散らばり、恋人を連れて、家族になって、子どもも生まれ…となると仲間も増える。今年は被災者支援がきっかけで出会った県内の若者たちも加わり、会場には赤ちゃんから地元のおばあちゃんまで年齢層幅広く、みんなの笑顔があふれていた。

 結婚という人生の節目を迎えた今年。ここに集まる大切な人たちにきちんと報告したいと思っていた。感謝祭の終盤、村の友人たちが突然、旦那に白いエプロン、私には白い襟付きの割烹(かっぽう)着をかぶせ、ベールに野の花の髪飾り。私たちに内緒で結婚のお披露目式を用意してくれていたのだ。式を挙げる予定はなく、ウエディングドレスも着ないと言っていた私に、まさか手作りの割烹着ドレスとは。ミズヒキのブーケを渡されたとき、この村に来て出会った友人たちの結婚式を思い出した。みんなで協力しあって開く、心のこもった手作りの式。装飾用に野の花を摘みに行く。摘みながら「私の時にはミズヒキのブーケがいいな」と言ったことを思い出した。

 予期せぬお披露目式、みんなの気持ちが温かくて涙があふれた。みんなに「ありがとう」を伝えるために開催したのに、逆にみんなから「おめでとう。いつもありがとう」の言葉をいただいた。こんなふうに人は相手を思いやり、支え合い、つながりあって共に成長し、共に楽しみを見いだし、そのエネルギーを生きる糧にする。最初は小さな輪かもしれないが、少しずつ広がっていく。そんな暮らしこそが私の目指す新しい生き方かもしれない。これからもこの場所でたくさんの人と「つながり」を大切に生きていこうと思う。






(上毛新聞 2012年10月23日掲載)