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視点 オピニオン21
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独日翻訳者  長谷川 早苗 (高崎市吉井町)


【略歴】ドイツ語学校のゲーテ・インスティトゥート東京校やゲッティンゲン校などで約10年間学ぶ。2011年4月に初の翻訳本出版。ぐんま日独協会事務局員。


仕事をすること



◎「ありがとう」伝えあう



 自営だと、どうも仕事の切れ目がわかりにくいものです。翻訳は家でしますが、はた目には何をしているかもわかりにくいらしく、祖父には仕事がないのだろうと心配されていました。ドイツ語レッスンの仕事で出かけると喜ばれたものです。

 翻訳関係の仕事には、チェック、リーディングなどもあります。チェックは言葉のとおり、ほかの人が訳した文を確認する作業。リーディングは外国の書籍を出版するか検討するために、本を読んで内容をまとめる業務です。

 それ以外にも、領収書を整理したり、取引先を増やそうと営業したり。こういうのは、直接は収入にならないけれど、やらなくてはいけないことですね。会員になっている日独協会の行事も、感覚としては半分仕事です。こうなると何が仕事で、何がそうでないのやら、わけがわかりません。

 単体で見るとあまり利益が出なくても、そこから次へつながることもあります。例えば、リーディングは割と手間がかかるのですが、単価は低いです。けれど、もし出来がよければ翻訳するチャンスを得られるかもしれないという特典がついています。つい忘れがちになるけれど、仕事がいろいろ形を変えて動いている感じを意識するのは、けっこう大事なことではないかと思うのです。常に変化する中を対応していかなくてはならないのですから。

 さて、長引く不況で、物を安く手に入れる、販売するという流れは強まっています。インターネットには無料の情報やサービスが膨大にあります。では、図書館に行けばただで借りられ、新古書店で安く入手できる本を、定価で買う意味とは何なのでしょうか? 形として手元に置いておきたい、新品で欲しいなど、人によっていろいろ理由はあると思います。けれど、ひとつ、「著者/書店/出版社を応援したい」という気持ちもあるのではないでしょうか。本は一例にすぎず、ほかの場合も同じです。

 いまの世の中、限られたお金や時間を、どこに、何に使うかは、大切な問題です。だからこそ、どうせ使うのであれば、「よかったよ」「ありがとう」「次もお願いね」と伝えたい相手を選ぶ流れもまた強まっているように感じるのです。

 消費者から仕事をする側へ視点を戻せば、やはり「よかったよ」「ありがとう」「次もお願いね」と言われる仕事ができたら最高です。それも、一方からだけではなく、双方ともに伝えあえたらもっといいでしょう。役に立ちたいという欲求は、誰もが持つ本能的なものです。






(上毛新聞 2012年10月31日掲載)