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視点 オピニオン21
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県自然環境調査研究会会員  谷畑 藤男 (高崎市竜見町)


【略歴】群馬大教育学部卒業後、理科教諭として千葉、群馬の小中学校に38年間勤務。日本野鳥の会、県自然保護連盟、県自然環境調査研究会などに所属。


渡り鷹サシバ



◎生存支える谷津田環境



 サシバはハシボソガラス大のタカであり、主にカエル・トカゲ・ヘビ・昆虫等を捕食する。4月初旬に本州から九州の里山に渡来し、繁殖を終えた9月中旬、越冬地である東南アジアへ渡去する。サシバは日本を代表する「渡り鷹」である。

 1986年10月5日、「全国渡鳥情報」という番組をNHKラジオが行った。全国の聴取者が各地で秋空を見上げ、終日「鷹の渡り」を観察する。結果を電話でNHKに報告し、番組の合間に速報するというユニークな企画であった。この日、群馬県も晴天であったが、午前中は高崎市内で学校行事があり、時々ラジオの速報を聴きながら、日本列島を刻々と南下するサシバの大群を想像した。午後から調査に参加したいと思ったが、当時県内の「鷹の渡り」の情報はなく、観察できる場所も不明であった。高崎周辺でタカの渡りそうな地形を思い浮かべる。東北地方から足尾山地付近を南下するタカが平野を越え、たどり着く山塊は吉井・藤岡・鬼石付近になる。この一帯で展望が良く、車で山頂まで行ける牛伏山(標高490メートル)がひらめいた。

 12時30分、山頂駐車場に到着する。北側の展望が開け、赤城山を背景に平野や街並みが広がり、緑の丘陵が島状に並ぶ。この空をタカが渡るという期待は15分後、現実になった。12時45分、北斜面から1羽のサシバが浮かび、山頂付近を旋回上昇後、南西に滑るように飛び去った。2時までにサシバ2羽とノスリ1羽を観察する。少数であるが、初めて「鷹の渡り」を見たことに満足する。帰路、公衆電話から結果をNHKに報告した。後日、日本野鳥の会保護研究センターから「鷹の渡り調査結果速報」が届く。全国150カ所で、500人の参加協力者があったことや各地のタカの移動が矢印で記入された地図もあった。日本列島には「鷹の道」が存在する。

 その後「鷹の渡り」を観察する人が増え、多くのタカが通過する観察地(白樺峠、伊良湖岬など)もわかってきた。牛伏山でも毎年9月中旬、「鷹の渡り」を観察する探鳥会が開かれている。

 観察者の増加やデータの蓄積、そして人工衛星追跡用の発信機を用いたハイテクな研究も進み、タカが渡る経路(メーンルート)がしだいに明らかになってきた。しかしまだ謎も多く、観察の楽しみはつきない。

 サシバの繁殖地は里山である。溜池と帯状の水田、そして雑木林に覆われた低い尾根。谷津田環境にはサシバの餌となる小動物が豊富である。開発行為や耕作放棄により山間の水田が減少している。谷津田における稲作等、農業の維持が「渡り鷹」サシバの生存を支えている。






(上毛新聞 2012年11月3日掲載)