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視点 オピニオン21
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高崎経済大教授  久宗 周二 (千葉市緑区)


【略歴】横浜市生まれ。高経大卒、日大大学院生産工学研究科博士前期課程修了、北大大学院博士(水産科学)取得。高経大准教授を経て、2010年4月から現職。


投げ出さない



◎責任を持ち社会の役に



 特に東日本大震災以降、いろいろな場面で、「前向きに考える」「ポジティブに生きる」「一歩前に進もう」などの言葉を目にする機会が増えてきたと思います。私も、常日頃、そう考えております。

 私は高崎経済大学を卒業後、理系の大学院を経て、愛知県の自動車部品メーカー、横浜の国際会議場へと転職しました。その間も研究職をめざしており、恩師の紹介があって、財団法人海上労働科学研究所の研究員に採用されました。船員の労働について研究する機関であり、初めのころは海や船員のことがよくわからず四苦八苦しました。

 いろいろな現場に行って船員さんたちの話を聞き、貨物船や漁船に乗って経験を積んで、何とか仕事ができるようになりました。北海道大学水産学部の天下井清教授の知遇を得て研究を指導していただき、「漁撈技術の評価と労働災害に関する研究」で北大より博士号をいただきました。

 ところが、順調に仕事が進んでいた矢先、経済状況の変化から研究所が他の団体と統合されることになり、研究員のほとんどがリストラされることになりました。私は妻子を抱えて一時は目の前が真っ暗になりましたが、運よく八戸大で職を得て、その後に母校である高経大に着任しました。

 研究所では船員の労働安全を研究していたのですが、研究所がなくなると、専門的に研究する機関がなくなってしまいました。しかし、現場には未解決の問題がたくさんあります。研究費や時間は限られ、他の研究を兼ねながらでしたが、船員の労働安全について少しずつ研究を重ねていきました。

 途中であきらめたり、投げ出したりするときには、人は必ず何らかの理由をつけます。「お金がない」「時間がない」「状況が変わった」などです。しかし、「私がやらなければ誰がやる」と、自分で責任を持ってやることがとても大切だと思い続けました。

 紙面でも紹介しました「船員の自主改善活動」などの研究が認められまして、今年10月より、国土交通省交通政策審議会船員部会の臨時委員に就任しました。船員の労働や雇用、賃金を審議することになりましたが、今までの経験を生かし、少しでも社会の役に立ちたいと考えています。

 いままで紙面で紹介しました「たかさき昼市」、その昼市の中での「被災地産品の販売事業」、「人の行動観察」、大学での「学生へのキャリア(就職)支援事業」は、並べると関連性がないように思われますが、いずれも「何らかの形で人に役立っている」と実感しています。これからも、時間を工夫して引き続き頑張っていこうと思います。






(上毛新聞 2012年11月6日掲載)