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視点 オピニオン21
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シンクトゥギャザー代表取締役  宗村 正弘 (太田市新田早川町)


【略歴】足利市生まれ。富士重工業で車体設計を三十数年担当。退社後、2007年、工業製品開 発を支援するシンクトゥギャザー設立。群馬大次世代EV研究会メンバー。


新規格の超小型車



◎安全性への責任自覚を



 これまで6回ほど超小型電気自動車にまつわるお話をさせていただきました。今回は、これから超小型モビリティ市場参入を目指す筆者の自戒の意味も込めて書きたいと思います。

 国土交通省が検討中の超小型モビリティ新規格については、いまだ詳しい内容が公表されておりませんが、それほど遠くない時期に明らかになるでしょう。それによって、中小企業でもチャレンジできるものなのか、既存のカーメーカーでなければ手が出せないものなのかが明らかになります。

 仮に誰でも作って売れるようなハードルの低い規格であったとすると、いろいろな企業がチャレンジしようとして中小企業が活発化する可能性が高まります。しかし、既存の車両規格と同等の高いハードルを設定したら、既存のカーメーカーしか参入できないので、カーメーカーを中心とした系列企業にしか利益が落ちず、多くの中小企業の活性化には寄与しないということになるでしょう。

 この落としどころは大変難しい課題で、規格化を担当する国土交通省と日本経済の活性化を担当する経済産業省とでこの辺をめぐっての議論が行われているとも聞きます。

 超小型モビリティを開発している中小企業の筆者としては、新規格の内容がハードルの低いものであることを願っています。と同時に、安全性や信頼性を担保する責任を自覚しない企業でも参入できてしまうことを危惧しています。ハードルが低いのをいいことに「何でもあり」と考え、目先の面白さや受け狙いを優先して、安全性や信頼性をおろそかにしたクルマが市場に出てきて問題を起こすようなことがあってはなりません。

 筆者はこれまでの人生の大半をカーメーカーの開発部門で過ごしてきました。そこでは誰もが、設計欠陥や製造欠陥で人の命が奪われるようなことがあってはならないという共通認識を持っていました。カーメーカーは万が一にもそのようなことが起きないように万全を尽くして開発・製造をしています。クルマを製造する者は「人の命を預かるもの」との認識の下で、物事を慎重に判断することが重要です。それができない企業は市場で自然淘汰され、生き残ることはできません。

 超小型モビリティ規格は、日本の自動車業界において軽自動車規格以来、五十数年ぶりの新規格です。新しい価値観が創生され、われわれのライフスタイルが一変するほどのポテンシャルを秘めています。これにより、日本の産業界が活性化し、人々の生活がより便利に、より豊かになることを願ってやみません。





(上毛新聞 2012年11月8日掲載)