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◎文化・習慣を尊重し合う 群馬県大泉町には多くのブラジル雑貨店が存在する。これらのお店はもともと出稼ぎ労働者のためにできたのだが、現在では多くの日本人のお客さんも訪れるようになり、大泉町の観光スポットとして脚光を浴びるようになった。 そんなブラジル雑貨店の変化を観察していると、複雑な気持ちを抱くことがある。ブラジル雑貨店・レストランでは、日本人が入りやすい環境を整えるため、メニューや看板など、日本語の表示を充実したり、また接客方法を日本人向けにアレンジしている。これらの心がけはとても良いことだが、店舗によっては日本人の集客を意識するあまりに、ブラジル人であることを隠す経営者が現れるようになった。 実は私自身もブラジル人であることを隠していた時期があった。日本に来て間もないころはブラジル人の友人も少なく、日本人と同じように過ごすことが当たり前になっていた。小・中学校の名簿はポルトガル語名は記載されず、以前勤務していた商社では、取引先に日本人と変わらない対応をしてもらうために、名刺に日本語名のみ記載されていたこともあった。一人娘もブラジルの公用語であるポルトガル語を話したがらず、小さかったころの自分を見ているかのようである。 まるで外国人としての自分を否定するような生き方だが、日本に住みなれると無意識のうちに自分の中で外国人への差別意識を作ってしまう。そんな心の葛藤の中、大泉町のブラジルのお店へ通うようになり、外国人としての自分を見つめなおすようになった。このきっかけを与えてくれたブラジル人のお店も、今ではブラジルを隠そうとしていることがとても悲しいのである。 大泉町のブラジルのお店に通うと、ブラジルで親しんでいた日本の文化のことを思い出す。ブラジルの東洋人街で七夕祭りに参加したり、少年ジャンプを買ったり、日本のアニメを好んでみていたほか、邦楽もよく聴いていた。東洋人街と同じように祖国の文化に触れられることこそが大泉町の魅力であり、多くの出稼ぎ労働者に元気と希望を与えている。この本来あるべき姿は、いつまでも残っていてほしいと願っている。 外国で生活をすることへの不安は大きい。言葉の壁はもちろん、その国の習慣を理解するまでに時間がかかることもある。しかし、慣れてしまえばそんな不安も小さい悩みだったことに気づく。そして自分自身を見失わず、お互いの文化・習慣を尊重することこそ、真の国際交流なのではないのだろうか。 (上毛新聞 2012年11月9日掲載) |