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視点 オピニオン21
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新島学園短期大キャリアデザイン学科教  山口 憲二 (高崎市下和田町)


【略歴】京都市生まれ。神戸商科大卒業、群馬大大学院修了。群馬大・高崎経済大・前橋工科大非常勤講師。日本キャリアデザイン学会研究組織委員。



キャリアの本願



◎「いのち」次代に伝える



 1990年以降、それまで暗黙の了解であった終身雇用が揺らぎ始めた。大企業の経営破綻や、大幅な人員削減のニュースがしばしば報じられた。その結果、会社依存のキャリア形成から自律的なキャリア形成、つまりキャリアデザインが注目されるようになったのだが、それには教育から見直さなければならないとして、大学や高校でキャリア教育が始まった。さらにキャリアを直接職業的な意味に限定せず、広く現代社会を生きる力という意味に広げて、2000年以降は小学校や中学校でもキャリア教育が行われている。

 筆者も本県の教育委員会を通じて、いくつもの研究会、会議等にかかわった。

 キャリアに関する問いで、子供にはよく、「大きくなったら何になりたいか?」と聞く。大人になら、「あなたは何を願う人ですか?」と聞くかもしれない。あなたの本願は何かという問いである。

 本願といえば全国各地に浄土真宗の本願寺がある。この名前は本尊である阿弥陀(あみだ)如来の本願(阿弥陀仏の名前をたたえればすべての人を極楽往生させるという誓願)からきている。

 この夏訪れた京都の東本願寺の外壁に「今、いのちがあなたを生きている」(Now,Life isliving you.)と書かれていた。親鸞聖人750回忌のテーマだそうだ。無数・無量の他力によって存在する「いのち」を、私たち一人一人が引き受けて生きていることのすばらしさを意味するメッセージだと理解した。私たちには、先祖から受け継いだ大切な「いのち」を、いわば駅伝のタスキのように次代に伝える役目がある。

 このことをキャリアデザインの視点から考えると、「世界で唯一の、さまざまな境遇・条件を懸命に生きてきたあなたのキャリアには大きな価値があるはずである。あなたにしかできないこと、あなただからこそできること、やるべきこと、それを成し遂げようとすることがあなたのキャリアの本願ではないか」、このように解釈できる。そうするとこの本願は人生の使命ということと同じである。

 2年前上梓(じょうし)した拙著の帯に「あなたは人生で何を成しとげたい人ですか?」と記した。実は自分自身への問いかけでもあるのだが、多くの学生のキャリア目標が「○○をしたい」「○○を学びたい」ではなく、「○○社に入りたい、○○になりたい」、高校生なら「○○大学に入りたい」のレベルに止まっていたからである。

 たまにはじっくり、「あなたは人生で何を成しとげたい人ですか?」「あなたの本願は何ですか?」の答えを考えてみてはどうだろう。それはおそらく自分の外にあるものを探すのではなく、「いのち」の中、これまでの、あるいはこれからの日々の一生懸命の取り組みの中にこそ見つかるものであろう。






(上毛新聞 2012年11月15日掲載)