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視点 オピニオン21
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スカイランナー  松本 大 (嬬恋村田代)


【略歴】群馬大大学院修了。2012年3月末まで東吾妻町原町小で教員を務める。国内外の大会に出場する傍ら、山岳マラソンの普及へイベント運営に取り組む。


山は地域をつなぐ



◎資源として生かす策を



 地図や衛星写真で群馬県を上空から眺めてみよう。県南東部には関東平野が広がるが、西部から北部にかけては山地が連なっている。県境を指でなぞってみると、南東部は利根川などの河川だが、北西部は日光白根山や谷川岳や浅間山などの山の稜線(りょうせん)となっている。交通網を見てみると、県中央部から東京方面に行くのは平たんな道のりだが、信越方面に行くためには峠を越えたりトンネルをくぐったりしないとならない。三方を山に囲まれ、それが県境となっている群馬県。山は地域間の交流を隔てるものというイメージを多くの県民がもっているのではないだろうか。

 しかし、山を障壁とだけとらえるのは東京志向・平地志向の安易な発想だ。全国から観光客が訪れる群馬県の有名観光地を挙げてみよう。尾瀬、谷川岳、草津温泉…。その多くが県境の山や山間地に位置している。私が住んでいる嬬恋村でも、年間を通して最もにぎわっているのは県境の山々だ。初夏に60万株のレンゲツツジが咲く湯の丸高原には、全国各地から大型観光バスが押し寄せる。浅間山、四阿山、草津白根山といった日本百名山には年間数万人の登山者がいる。キャベツもコンニャクも焼き饅まんじゅう頭も悪くはないのだが、やっぱり山の景観、山の動植物、山から湧き出る温泉こそが、群馬県を特徴付ける大きな魅力として県外の人間からはとらえられているのである。つまり、山そのものが、群馬県の山間部、とりわけ過疎に悩む地域を活性化するための資源となる可能性を大いに秘めているのだ。

 山という地域資源を使った地域活性化策として、今注目されているのが「トレイルランニング」だ。トレイルランニングとは、登山道を走るスポーツで、わかりやすく言えば「山岳マラソン」のことである。近年ランニングブームやアウトドアブームの影響もあり、首都圏を中心に競技人口が増えている。群馬県内でも神流町、川場村、前橋市、嬬恋村で数百人規模の大会が開催され、県内はもちろん、県外からも多数のランナーが参加する。神流町の大会では町民総出となって、山の幸を使った料理で参加者をもてなしており、それが県外のランナーたちの評判となって“神流”の町名は一躍有名になった。スキー場のような施設がない山であっても、県外からの観光客と山間地の住民が交流する場として、山が活用され始めているのである。

 山は地域間の障壁だと、ネガティブなものとするとらえ方は、三方を山に囲まれた群馬県、はたまた国土の7割が山地である日本列島に住んでいる人間として、あまりにももったいない発想だ。大切なのは逆転の発想。山は地域間をつなぐ懸け橋だとポジティブにとらえてみることで、地域資源を生かした地域活性化の具体策が見えてくるのではないだろうか。






(上毛新聞 2012年11月18日掲載)