,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
北関東循環器病院長  南 和友 (前橋市大利根町)


【略歴】大阪府生まれ。京都府立医科大卒業後に渡独、心臓血管外科医として多くの手術をこなす。日本大医学部教授を経て2010年から現職。独ボッフム大永代教授。


ドイツの医療制度



◎絶え間なく進んだ改革



 わが国は明治初期にドイツの医学教育、医療制度を学びそれらを導入して今日の医療を確立してきた。草津温泉に縁のあるドイツ人医師のE・ベルツ博士が1876(明治9)年に東京医学校(現東京大学)内科正教授として来日し、日本で初めて西洋医学の教壇に立ち、その普及に貢献したことをご存じの方は多いと思う。しかし、日本の医療制度のひな形となったドイツの医療制度が、とりわけ第2次世界大戦以降、現在に至るまでどのように変わってきたかはあまり知られていない。

 筆者は京都府立医科大学卒業の2年後(くしくもE・ベルツ博士来日の100年後)の1976年に当時の西ドイツで心臓外科を学ぶべく渡独、それ以来30年間、ドイツにて心臓外科治療を専門に医療を行ってきた。2005年に日本大学医学部教授の任命を受け、期するところもあって帰国、10年から渋川市所在の北関東循環器病院で心臓血管外科の治療に当たり、後進の育成に力を注いでいる。

 とりわけ60年代初めのころまでは日本と同じく敗戦を経験したドイツに対する国外からの評価は批判的であり、医療に関してもその例外ではなかった。戦勝国のアメリカは強靭(きょうじん)な経済力に裏打ちされて外交、軍事のみならず文化面や科学分野で世界を支配する勢いを呈してきた。すなわち、医療に関してもドイツ医療は学術的には捨てがたいものがあるも、国民の医療という面では過去のものという風潮が流れ、日本を含む諸外国からあまり注目を浴びてこなかった。

 しかし、ドイツは70年代に入り高度経済成長を成し遂げ、東西ドイツ合併(1989年)後、一時的に国内経済の低迷はあったものの、今日に至るまでヨーロッパ共同体(EU)をけん引していく存在となった。ドイツの国民皆保険制度は戦前から発足していて医療費は全額無料、幼稚園(キンダーガーデン)から高校・大学までの授業費無料、年金や介護保険の半額公的負担などの社会保障制度が他の国と比較して充実している。その財源はとりわけ、消費税を段階的に引き上げる(現在19%)ことでも捻出している。

 そのような背景の中、ドイツではすでに70年代の後半から将来の医療費の高騰を危惧して国民皆健康保険制度保持のための政策、改革を絶え間なく行ってきた。著者は30年間の在独の間に、そのさまざまな医療制度改革を経験してきたので、次回からこの「視点」欄で6回にわたり詳細を記していきたい。

 記する項目を挙げる。

 (1)ホームドクター制度(2)力を入れる予防医学(3)医療財源の有効利用(4)プライベート医療保険制度(5)専門医の認定は誰が?(6)日本の医療改革に提言







(上毛新聞 2012年11月23日掲載)