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視点 オピニオン21
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楽竹会代表  八柳 良介 (邑楽町藤川)


【略歴】東京都出身。2007年に三洋電機を早期退職後、竹細工を習得。11年から竹細工教室の講師を務め、12年1月に竹細工愛好会「楽竹会」を立ち上げ活動中。


竹細工のススメ



◎大きな達成感味わえる



 昨年4月に竹細工の教室をスタートさせ、今年1月には竹細工愛好会「楽竹会」を立ち上げた自分にこの春、ビッグな話が舞い込んだ。テレビ朝日の人気番組である「人生の楽園」から出演依頼をいただいたのだ。「人生の楽園」は自分もよく見る番組で、いつかこんな番組に出られたらなあと夢見ていたものである。いくつかの準備を経て1週間のハードなロケがあり、ついに6月に放映された。

 放映が終わったとたんに電話が鳴った。かけてきたのは番組を見て楽しかったという岐阜の女性であった。その後、次から次へと電話が鳴った。北は青森から南は沖縄まで。なんという幸せであろうか。思わず竹細工を始めたころのことを思い出していた。

 それは今から5年ほど前、30年勤めた会社を早期退職し豊富な自由時間を手にしたとき。さてこれからどう生きようかと考えている自分の目に裏庭の竹林が鮮やかに飛び込んできた。そうだ、この竹を生かすことをやってみよう。時間と竹はふんだんにあるし、竹細工で良いものができれば買ってくれる人がいるかもしれない。このお気楽な考えに水を差したのは竹細工を教えてくれる人がなかなか見つからなかったことだ。聞けば今住んでいる150戸ほどの集落で、いわゆる「かごやさん」と呼ばれた竹細工業の家が昔は5~6軒あったという。それがどうだろう、調べてみると近隣集落どころか、邑楽町全体でさえ竹細工業の家はまったくなくなってしまっていた。時代の流れといえばそれまでだが、千年以上にわたって日本人の生活を支え、文化形成にまで大きな影響を与えたと言われる竹産業が近年の経済成長の中で、あっという間に姿を消してしまったというのは少々考えさせられるものがあった。

 苦労の末見つけたのが藤岡市にある「土と火の里公園」の竹細工教室。やる気満々勇んで訪ねると教室の先生はにこやかに迎えてくれて、竹かご作りを指導してくれた。青々した丸竹をのこぎりで切り、ナタで鮮やかに割っていく。その熟練の技を見ているだけでも楽しい。ひごができると編み方を教えてくれた。竹のひごは1本1本は薄くてペラペラなのに、編むうちに強靭(きょうじん)になっていく。なれない身ではすぐに編む指が痛くなってきた。しかし、徐々にかごの形ができてくると、えも言われぬ喜びが満ちてきた。そしてついに完成。要所は先生がやってくれたものの、初めてのかご作りで大きな達成感を味わうことができた。

 久しく経験がなかったこの感動が、その後の竹細工修業のエネルギーとなり、今では人を指導するまでとなった。自分は器用だと思う人はもちろん、不器用だが粘り強いという人もぜひ竹細工にチャレンジしてほしい。その技をうまく身につけることができれば、それまでの人生とは全く違う世界が開けるはずだ。






(上毛新聞 2012年11月24日掲載)