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視点 オピニオン21
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経営コンサルタント  勅使川原 敏之 (前橋市南町)


【略歴】群馬大卒業後、電機メーカーに27年勤務。早期退職し法政大大学院で経営管理修士(MBA)取得。県中小企業診断士協会群馬経営戦略研究所サブリーダー。


経営診断とは



◎企業の未来を映す「鏡」



 経営の技の第一は、経営者が自己を見つめる機会を持つことである。時期は決算報告書が出た時がよい。報告書が過去を映すバックミラーだとすれば、未来を映す「鏡」は経営診断である。自分だけの鏡があれば笑顔ができているかチェックできるのだ。

 映画『ハリー・ポッターと賢者の石』に出てくる「みぞの鏡」は望むことを見せてくれるという。営業や販売の不振に困っている中小企業経営者は、未来を見たいはずだ。

 経営診断でいくつかヒントを助言したら、業績を改善した経営者がいる。販売の基本方針や若い後継者の役割の確認、店舗販売とウェブ販売の両立―といった戦略を立てた。その経営者は前から同じように考えていたという。未来像が後押しとなって、後継者と経営について向き合い、前進した結果、業績は右肩上がりだ。

 経営診断とは何か紹介しよう。それは専門的知識と分析を用い、経営者とともに課題を明らかにし、解決の方向を探るものである。手法としては、経営者へのヒアリングと現場診断を行う。たとえば、中小企業診断士2人が1組となり、その企業の過去3年間の決算報告書から経営成績を分析する。さらに、企業において経営悪化の原因となる管理状況を把握する。こうした調査結果から経営課題と解決策を審議し、報告書としてまとめる。この結果をもとに、企業訪問し経営者に報告する。経営改善について具体的な提案をし、協議する。

 これは総合診断である。企業の強みをいかに伸ばすか、目先の損益だけの視点でなく、将来的に安定した経営が獲得できるかなど、「大局観」から助言する。問題があれば、明日から改善すべき具体的な方法を提案するのである。

 一部の金融機関や行政機関では無料あるいは企業負担を軽減しての経営診断サービスを実施している。対象は中小企業だ。経営診断が経営力強化に有効であると評価しているからであろう。健全な企業経営にはまず診断が必要と考えたい。

 群馬県中小企業診断士協会はこうした機関と契約を結び、中小企業の支援に取り組んできた。実際の支援の対象は群馬県から支援を受ける建設業、金融機関の取引先企業、前橋市が支援する創業を目指す企業、福祉施設などいろいろな業種である。過去3年で300社を超える診断を行ってきた。県内約8万社の中小企業数からすれば普及はまだまだといえる。

 経営診断は人間の健康診断と似て、経営悪化の予防や早期発見、改善の可能性がある。受診した経営者から「もっと早く受けていれば良かった」「想像していたことだが確認できた」などの感想が聞かれる。見えないものが見える「みぞの鏡」には経営者が望む未来や道のりが映るのであろう。





(上毛新聞 2012年11月26日掲載)