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視点 オピニオン21
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デザイナー  塚田 堂鬼 (沼田市薄根町)


【略歴】前橋市出身。農大二高、東京造形大卒。家族のつながりや子どもの成長に寄り添うデザインで注目を集める一方、地域おこしなどをプロデュースしている。


木製玩具ブランド化



◎販路広げる「伝える力」



 日本には伝統産業を基盤に発展してきた地域が数多くあり、かつては地元の土産物生産や欧米への輸出で栄えていたと聞く。家内工業的な職人技で成り立つこれらの産業は、ここ20年で消費者のニーズに対応できずに低迷し、存亡の危機にさらされている。現場では職人の高齢化、後継者不足や販売網の変化、流通システムへの乗り遅れなどさまざまな問題を抱えている。

 デザインを生業とする私は仕事柄、各家具産地で商品開発を手掛けてきた。現場に通ううち、家具を製造する時に出てしまう短材(端材)がもったいないといつしか思うようになっていた。質の良い材だけになおさらだ。そこで、これらを生かした「木を使い切る仕組みづくり」はできないものかと考えた。

 ある時、挽物や指物の職人集団と出会った。彼らは短材も扱うものづくりをしていた。素材、そしてそれらに光を当てる職人技とデザインがそろえば、残るは流通だ。職人に短材を届け、手仕事を感じられる製品を生み出し、家具メーカーの流通に乗せるという「お互いに利益が成り立つ仕組み」を考え、双方に投げ掛けてみた。結果、事業として動きだすことになった。

 次は、コラボの流れから生まれる「モノ語り」をブランドに育てるべく、新たな切り口を探った。市場では、欧州のカラフルな商品は広く流通しているが、国産木製玩具は見当たらない。競合するメーカーが少なければ日本一になれる可能性は高い。そこで木肌を生かした玩具に特化するブランドづくりを目指した。

 木製の知育玩具は手作業で丁寧に作られるため、世界的に有名なブランドでも数十人規模の工房が多く、欧州では「安心・安全」へのこだわりが地味ながらも業界を支え続けてきた歴史がある。近年、わが国でも環境や安全性、創造性のある玩具が求められるようになり、インターネット上での販路が確立されたことで市場は拡大した。少子化の統計データだけを見れば見捨てられがちな玩具業界だが、焦点を絞れば将来性はある。

 従来の流れの中で漠然と製品を世に送り出しても、もはや先はない。これからのものづくりに大切なのは「ブランド力」だ。ブランドの大前提は「認知」であり、いくら誇れる製品を作れても、多くの人に知られなければ世の中に存在しないのと同じである。成功へのカギは「素材・技術・デザイン」の吟味と編集力にあり、「伝える力」が販路を広げていく。個性的な職人技や伝統、素材の質や背景、ニッポン性などにモノ語りは潜んでいる。

 商品は、11月21日から3日間、東京で披露された。これを突破口に、世界市場にチャレンジすることを仲間との新たな目標としたい。





(上毛新聞 2012年11月29日掲載)