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尾瀬ガイド協会会長  塩田 政一 (片品村鎌田)


【略歴】栃木県出身。尾瀬保護財団評議員。日本山岳ガイド協会認定登山ガイド。ぐんま森林インストラクター会会長。NPO法人「片品・山と森の学校」代表。


尾瀬の電動バス



◎事業化には多くの課題



 尾瀬の玄関口、大清水から一ノ瀬まで走る社会実験の電動バスに乗ってみた。実験期間中の9月22日、尾瀬保護財団のフィールド講座「会津街道を歩く」に参加するためである。集合は沼山峠休憩所に10時。私の足では大清水から4時間は必要だから6時には歩き始めなくてはならない。だが、この日は運よく徒歩で1時間はかかる一ノ瀬までの道を電動バスが動く。30分ほど助かるし、体力が落ちた今、この間のエネルギーを消耗しないだけ、あとが楽になるというものだ。

 一昨年の秋に大宮市で開かれた尾瀬国立公園協議会の会議で、この社会実験が提案された時は反対意見を述べた。沼田会津街道を車道にする工事が、「泉が枯れる」という平野長靖氏の新聞投書がきっかけで中止となってから40年が経過した。彼をはじめ工事中止に尽力された方々は鬼籍に入られた方も多く、うかがうことができないのは残念だが、彼らはどう思われるか。

 また、広げられた道の両側に芽生えたヤマハンノキなどが大きくなって緑のトンネルができてきたのに、車を通すために伐採されるのは惜しいことだし、移入植物の危険性も高くなる。

 実験が終わってから、環境省と県尾瀬保全推進室のヒアリングがあった。その席で「尾瀬の利用者を増やしたい」のが主な理由だという彼らの提案に納得せざるを得なかったし、車両が小さいので木を切ることもないというので挙げた手を下ろしたのだ。

 1996年の64万人が多すぎるというので減らす努力が実を結び、このところ尾瀬への来訪者は半分以下になって、原発の風評被害が拍車をかけた昨年は27万人。自然保護の側から言えば少ない方がいいのだろうが、木道の補修などの国の予算も減るだろうし、緊急避難に必要な山小屋の経営にも支障を来してくる。早朝の尾瀬を楽しむには山小屋は必須だし、経営難で廃業した場合は1億円を超えるであろう撤去作業もおぼつかなくなる。

 しかし、皆の賛同が得られ、この事業が実施可能になった場合、誰が引き受けるのだろうか。営業するとなれば採算性を考えなければならない。鳩待峠―戸倉は約12キロで現在900円、大清水―一ノ瀬は3キロしかないから500円が限度だろう。それに、まだ一般化されていない電気自動車を待てないだろうから、既存の車両を使うことになるのだろうが、それでいいのか。尾瀬を周遊する場合、車で来た人も戸倉―鳩待峠はシャトルバスに乗らねばならず、定期バスのダイヤも連動して検討されなければならない。大清水発着ではなく、戸倉発着もありだろうが、それでは大清水の振興には役立たない。

 また、この実験が尾瀬を通って福島への車道建設につながらなければいいのだが。皆さんの英知に期待したい。






(上毛新聞 2012年12月1日掲載)