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視点 オピニオン21
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弁護士  佐々木 弘道 (高崎市桧物町)


【略歴】島根県出身。創価大卒。1992年に司法試験合格。95年に群馬弁護士会に登録し、98年「佐々木法律事務所」を開設した。専門は民事一般と企業法務。


ADRの運用開始



◎早期の紛争解決に一役



 8月31日に前橋市内で関係者を集めて群馬弁護士会紛争解決センター(ADR=alternative dispute resolution)の設立総会が開かれた。9月18日から群馬県でも同センターの具体的な運用が始まった。ADRは、裁判や従前の調停等、裁判所を介在させないで紛争を解決する制度で、簡易・迅速・公正をモットーとする私的な紛争解決センターである。

 2007年に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が施行されてから、全国各地で弁護士会や司法書士会、土地家屋調査士会、社会保険労務士会といった士業の団体がADRを設立し、全国の弁護士会だけでも現在31を超えるADRが設立され、運用されている。

 近年、国民の権利意識の高揚とともに潜在化している種々の紛争の解決が望まれ、他方、一連の司法改革の流れのなかで、さまざまな紛争形態に応じて解決手段の多様化が要請され、その結果、さまざまなADRが設置されてきた。この制度は、簡易・迅速・公正を旨とし、裁判所の調停と異なり、例えば、土日や夕方等サラリーマンや平日都合の悪い人たちも利用できる時間帯に開催したり、あっせん委員の弁護士の事務所をあっせん場所として利用できるなど、さまざまな運用上の工夫がある。また、経験のある弁護士があっせん人になるため、公正な手続きが担保されている。交通事故や離婚から金銭貸借、男女問題等、紛争内容にはさまざまなものがあるが、弁護士会のADRには取り扱う事件に限定がないのも他の士業のADRとの違いである。

 最近、隣接する住民の騒音のトラブルが殺人事件に発展したケースなど痛ましい事件が報道されているが、このようなトラブルは早期にお互いが話しあえば悲惨な結末にはならなかったと思われる。このような紛争があった場合、裁判所でいきなり訴訟をするのではなく、まずは私的な機関であるADRの弁護士のあっせんに問題解決を期待することを薦めたい。

 弁護士会紛争解決センターを利用するためには、注意すべきことがある。

 まず、弁護士の紹介か法律相談を受ける必要があり、手数料がかかる。また、あくまで任意の手続きであるため、相手方に対して出頭などの強制力はない。

 さらに、現在は法務省の認証を受けていないので、時効中断等の法的効果は付与されず、消滅時効完成間際の売掛金等の請求をする場合には注意が必要である。この認証については今後の課題である。いずれにせよ、さまざまな紛争の早期の解決は国民の利益になる。







(上毛新聞 2012年12月2日掲載)