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視点 オピニオン21
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赤城深山ファーム代表  高井 真佐実 (渋川市赤城町)


【略歴】東京都出身。都立農業高卒。そば店経営を経て、2004年から県内でソバ作りを始める。12年、全国そば優良生産表彰事業で農林水産大臣賞を受賞。


ソバ栽培へのこだわり



◎店が求める品質を提供



 「植木屋さん、ソバを栽培してみない?」。8年前、東京の製粉会社の庭の手入れをしていた時に、そう声を掛けられたのがソバを栽培するきっかけになりました。栽培の仕方も知らなかった私が、本気でソバを栽培してみようという気になったのは、「蕎麦(そば)屋が求めるソバを栽培したい」と思ったからです。

 造園業を始める前、私は東京で蕎麦屋を経営していました。だから、ソバの栽培の仕方は知らなくても、そば粉のことなら知っている。蕎麦屋の目線で、蕎麦屋が本当に欲しいと思うソバを生産したい。それが私の目標になりました。

 ソバは米や麦と同じ穀類に分類されますが、私はソバは他の穀類よりも生鮮物に近いものだと思っています。鮮度が重要で、傷みも早い。だからこそ、収穫の方法やタイミング、乾燥調製の工程、保管方法には細心の注意が必要です。ソバの味・色・風味を最大限引き出すため、私は各工程に独自のこだわりを持っています。

 例えば収穫作業。機械収穫は一般的には葉が落ちて水分が下がってから行いますが、夏ソバに至ってはまだ花が咲いている状態で収穫します。歩留まりは下がりますし、何といっても作業効率が下がります。茎も葉も水分が多い状態で刈り取るのですから、収穫機械はすぐに詰まってしまいます。だから、畑を1周するたびに機械を止めて、ごみを取り除くことになります。また、収穫袋の中には茎や葉が多く混入し、それを選別するのも一苦労となります。

 収穫機械にもこだわります。最近はグレンタンクと言って機械に内蔵されたタンクに収穫物を貯留するタイプが普及してきています。このおかげで、農家は収穫物の詰まった重たい網袋を持ち上げる作業から解放されることになります。しかし、私は昔ながらの網袋にこだわっています。グレンタンクの中で、収穫したソバが熱を持ってしまうことを避けるためです。

 農業機械の発達は作業効率を格段に向上させ、農家の負担を確実に軽減してくれています。でも、機械効率や作業性を優先して、品質を落としてしまっては消費者ニーズをつかむことはできません。最も優先すべきことは、消費者の求める商品を提供することだと私は考えます。

 私の栽培したソバを愛用してくれている蕎麦屋さんは、私が新ソバを出荷するたびに「今回もいいソバだったよ」と連絡をくれます。そして「もっとたくさん作ってよ」の声に支えられたからこそ、わずか8年で栽培面積を100ヘクタールにまで拡大することができました。「蕎麦屋が求めるソバを栽培する」。エンドユーザーのニーズを第一に考えた私のソバ栽培は、確実に実を結んでいると感じています。







(上毛新聞 2012年12月4日掲載)