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視点 オピニオン21
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両毛漁業協同組合長  中島 淳志 (桐生市川内町)


【略歴】奥羽大文学部英語英文学科卒。アパレル関係の仕事の傍ら、漁協に従事。2010年、組合長に就任。釣り専門誌に執筆し、フライフィッシング講師も務める。


漁協の役割



◎魚を増殖、遊漁管理も



 悲しいかな、近ごろは魚の放射性物質に関するニュース等で漁業協同組合(漁協)という存在が釣り人以外にも知られるようになってきた。とはいえ、実際、漁協がどんなことをしているのかは、普段関わりがないので良く分からないといった感じであろう。しかし、漁協は地域住民とかなり密接した関係にある。

 日本では古来、魚釣りが盛んで、人々の生活とは切っても切れないものであった。今でも地域によっては存在するが、一昔前までは河川・湖沼でも漁業を営む者がたくさんいた。各地域の漁業者によって組織された協同組合が漁協であるが、おそらく群馬県内において、河川・湖沼での職漁師はほとんどいなくなったと思われ、漁協の形態も時代と共に変化してきたと言えよう。

 近年、自然破壊等による急激な自然環境の変化で、水産資源は減少傾向にあり、内水面(河川・湖沼)に生息する魚の中には、自然産卵による繁殖のみでは絶えてしまう場所が増加してきている。釣り人が採捕する分を含め、そうした減少を補うため、卵や稚魚、成魚の放流といった「魚の増殖」が義務付けられており、その増殖業務を一貫して行っているのが各地域の水域を管轄している漁協である。そして一見、魚の増殖とは相対する働きにも思える「遊漁」の管理も大切な業務の一つである。「遊漁」とは字のごとく、遊びや趣味といった娯楽の魚釣りなどをいう。

 遊漁(採捕)者は、河川・湖沼で釣りなど魚の採捕をする場合、いろいろな制限や規則に縛られる。「漁業法」や「水産資源保護法」といった法律規制、その根拠に基づき定められた各都道府県の「漁業調整規則」、各漁協によって定められた「遊漁規則」「行使規則」がある。これらを厳守し、各漁協で定められている遊漁料金を支払う義務も有する。

 自然相手の遊びにこのようなものが付いてくると、急に世間の風当たりが強くなるが、この規制こそ、魚の乱獲を防ぎ、各河川・湖沼の生態系、資源のバランスを保つためのものであり、釣り場の秩序やモラルを保つものなのである。そして、遊漁料金は他でもなく、魚の増殖のための放流資金や釣り場環境の維持管理に使われる。

 現在、群馬県内の河川・湖沼を取り巻く環境は、難題も多く、決して良いとは言えない。漁協の経営難も厳しいものがある。負のスパイラルとはこんな状況を言うのであろうが、だからこそわれわれは現場の実情をより正確に把握し、対処する努力を惜しんではならない。その努力こそ常にその街と共にあり、釣りを愛し、地元の河川・湖沼を大切に思うわれわれに、そのまま返ってくるものと言えよう。






(上毛新聞 2012年12月7日掲載)