,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
群馬大小児科教授  荒川 浩一 (前橋市大利根町)


【略歴】東京都生まれ。日比谷高、群馬大医学部卒。イエテボリ大博士。2008年から現職。小児アレルギー学が専門。本県の小児医療体制のさらなる充実に取り組む。


食物アレルギー



◎皮膚症状は早期に治す



 食物アレルギーとは、やっかいなものである。一般の人々が食べると栄養となるものが、毒になるのである。特に、栄養価の高い鶏卵、牛乳、小麦製品が3大アレルゲンである。これらの1品目だけでなく、複数に及ぶと市販品で食べられるものが限られてしまい、非常に難儀となる。

 2009年度の日本保育園保健協議会の全国調査によると、年齢別有病率は、0歳が7・7%、1歳が9・2%、2歳で6・5%、3歳で4・7%である。その症状は多岐にわたる。皮膚や粘膜、消化器、呼吸器、さらには全身性に認められることがある。最も多い症状は皮膚(じんましん)や粘膜症状であり、複数の臓器に症状が出現する状態はアナフィラキシーと呼び、咳込みやゼイゼイするような呼吸器症状の出現はアナフィラキシーショックへ進展する危険性が高まり、注意が必要である。

 「原因となる食物を摂取しない」ことが基本となるが、だからといって、やみくもに除去すればよいものではない。薬を飲ませる治療は医師でないとできないが、食物除去療法は母親でも簡単にできてしまう治療法である。そのために、何でもかんでも除去してしまい、栄養摂取不足となってしまうお子さんも出る。乳幼児期は、脳や神経の発達に非常に重要な時期であり、その発達には十分な栄養が必要であることも十分に承知すべきことである。

 なぜ、このような食物アレルギーが乳幼児に多いかについては以前から、乳児期は消化機能が悪く、摂取した食物が十分に消化されずに身体に吸収され、そこに免疫機構が働き感作(アレルゲンと認識)されると言われていた。

 最近は皮膚感作説が注目されている。乳児湿疹やアトピー性皮膚炎から食物アレルギー、その後、気管支喘ぜんそく息やアレルギー性鼻炎が次々に行進するように現れる「アレルギーマーチ」は有名である。乳児期の最初に見られる皮膚症状により皮膚バリア障害を来し、さまざまな物質(食物、ダニなど)が皮膚の角質層に侵入して、それを免疫細胞が認識して感作が生じるという説である。

 原因はそればかりではないが、乳児のまわりを清潔に保ち、皮膚症状を早く治しておくことで、食物アレルギーの発症を回避してくれる可能性は大である。

 一方、年長になっても食べられない子は、「おいしい物が食べられなくて、かわいそうね」と声をかけられるのが一番つらいと感じている。世界中には宗教上の理由で、特定のものを食べられない人が大勢いる。同じように「個性」と自然に受け止めていただきたい。






(上毛新聞 2012年12月11日掲載)