,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
あそびの市場実行委員長  小松 慎二 (高崎市菊地町)


【略歴】富岡市生まれ。富岡高から群馬大教育学部に進学。同大大学院修了後、「楽しみながら遊べる」を基本とした「あそびの市場実行委員会」を立ち上げた。


恩師の「教育」



◎子どもに生き方を示す



 これは私の人生をよいものにしてくれた「恩師」のお話です。

 とある学校の、とある担任の先生。気さくで、いつも笑顔で、冗談を言うと冗談で返してくれて、みんなにこにこ楽しいクラス。そんな先生が私は大好きでした。

 その先生がある日、遅刻をしてきました。私はいつものノリで「あー、先生が遅刻したー!。先生が遅刻したらもう怒れないよね。おれたちも明日から遅刻してもいいんだよね!」。そう叫びました。「またそういう冗談言ってー」と、にこにこしながら軽く返してクラスが笑いに包まれる…そう思っていました。

 でも、その日は違っていました。先生はその場でポロポロと涙をこぼしてしまったのです。大好きな先生を泣かしてしまったことで、おろおろしてしまいました。「あー、こまつが先生泣かした!」。まわりからそんな声が聞こえてきました。その直後、先生は「ごめんね、何でもないから。それじゃ、授業をはじめます」。そう言ってすぐに授業をしました。

 その日の放課後、先生は誰にも気づかれないように私を別室に呼んで、こんなお話をしてくれました。

 「今朝はいきなり泣いちゃってごめんね。いろいろ理由があるんだけど、あなたにはきちんと話しておきたいと思ったの。実は今朝、先生のお母さんが倒れてね。それで朝から病院に付き添ったりしていて遅刻したの。他の先生たちは休んでもいいと言ってくれたけど、先生はみんなのところに行きたいと思ったから、学校に来たの。でも、そんな時にかけられた言葉があなたの今朝の言葉で…思わず泣いちゃって…ごめんね。あなたがいい子だってことはよくわかってる。人を傷つけようとか、そういうことを考えていないってのはすごくよくわかってる。でもね、人って時と場合によっては同じ言葉でもショックを受けたりすることがあるの。あなたにはそうしたところまで配慮できる人になってほしい」

 私は幾百、幾千の言葉よりも、この先生の「生きざま」から学ぶことができました。「自分が大変な時に人のことを考えられる。こういう大人になりたい」と。

 仕事柄「子どもに○○させたいんですが」という相談を受けることが多々あります。しかし、そうした【人を変えようとする】やり方では子どもたちは変わりません。子どもたちが【ああいう大人になりたい】と思ってくれる自分になることこそが一番の教育ではないでしょうか。みなさんは自分の過去を振り返ってみたとき、そう感じませんか。「子どもたちが大人を見て希望を持つ」―そんな世の中にしていきましょう。それが「大人」の役割ではないでしょうか。






(上毛新聞 2012年12月12日掲載)