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視点 オピニオン21
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国際オリンピック委員会名誉委員  猪谷 千春 (東京都中央区)


【略歴】冬季五輪銀メダリスト。現在、国際オリンピック委員会名誉委員、日本オリンピック委員会理事、東京都スキー連盟会長。富士見村名誉村民。


運動不足の若者



◎体力つけ豊かな人生を



 80歳を過ぎるとそろそろ自分の亡き後を考えるようになる。将来に向けて今、私が憂慮していることの一つに、日本の将来を託された若年層の体力不足がある。文部科学省の調査によれば、今の子どもたちを50年前と比較すると、学力では問題ないが、基礎体力の面でかなりの落ち込みが見られると報告されている。これはわが国にとって誠に憂慮すべき問題と私は考える。

 いくら頭脳明晰(めいせき)な若者を育てても、体力を併せ持っていなかったら、せっかくの頭脳も使いものにならなくなってしまう。自動車に例えれば、どんなに強力なエンジンを開発しても、載せて走れる丈夫なボディーがなければエンジンは使い物にならない。

 体力を必要とするのはスポーツに限ったことではない。政治家やビジネスマン、芸術家やあらゆる分野で仕事をしている人たちにも当てはまる。激務に耐えうる体力がなければ、どんな才能を持ってしても満足な仕事はできない。このことを私はスポーツやビジネスの世界を通して学び、体験してきた。

 また、医学の進歩により長生きする人が多くなったことは誠に喜ばしい。半面、いくら生きながらえても寝たきり老人となってしまったのでは、ただ家族や社会に迷惑を掛けるだけだ。若いうちに十分体力をつけ、晩年になっても健康で幸せな日々を送れるようにしてほしい。私は3歳の時から、日本スキー界の草分け的存在だった両親からスキーを仕込まれた。冬はスキーに、夏はスキーに備えた体力作りと、常に体を動かすハードな日々を送ってきた。その結果、人並み以上に体力をつけることができ、この年になっても毎日元気に仕事やスポーツに携わって充実した日々を送っている。

 昨年80歳で国際オリンピック委員会委員を定年で退任するまで、毎年1日だけの会議に出席する時には、東京-ヨーロッパ間をいつも3日間で往復していた。また、年20回以上海外に出張したことも度々であった。このようにして長年元気に激務に耐えられたのも、体力があったからこそである。

 体力が低下した原因はいくつかあげられるが、その一つにレジャーの著しい多様化がスポーツ離れを起こし、身体で体感する遊びの面白さを得る機会が失われ、バーチャルな遊びに満足して内に引きこもる若者が増えたことがあげられる。また、偏った食事の摂取から肥満児が増え、若者たちから運動意欲を奪った。

 ここで私は子どもを持つ親の皆さんに訴えたい。それは、勉学に対するのと同じように子どもの体力作りと健康に気配りしていただきたい。合わせて、次世代を担う大事な若い人たちは、積極的に体力をつける努力をし、世の中に役立つ立派な若者として元気に成長して幸せな人生を送れるよう気配りをしていただきたい。





(上毛新聞 2012年12月13日掲載)