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視点 オピニオン21
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劇団主宰  長田 紫乃 (神奈川県相模原市)


【略歴】神奈川県生まれ。7歳までオーストリア、ドイツで暮らす。高崎女子高―東京大卒。2012年に演劇ユニット「I.N.S.N.(いなせな)企画」を旗揚げ。


旗揚げ公演を終えて



◎“裏方”の大変さを実感



 この文章を書いているのはI.N.S.N.企画の旗揚げ公演が終わった2日後です。「今までにできなかった挑戦をしよう」と言いだした私に巻き込まれる形で、8人の役者と演出家、スタッフが集結してくれました。賛否両論、中には厳しい意見もありましたが、ご来場くださった皆さまには私たちの挑戦を(舞台上で脱ぐということも含め)おおむね楽しんでいただけたようでした。群馬から渋谷まで小旅行をしてくださった方々、ありがとうございました。今は公演の成功をうれしく振り返っております。

 今回の公演は想像以上に大きな労力が必要でした。何しろゼロから芝居を作り上げることに挑んだので、初めから簡単だと思える材料はどこにもありませんでした。私はどこかで芝居を生みだす作業をなめていたのかもしれません。今までは与えられた舞台で演技のことだけを考えれば良かった。制作者がどんなに苦労をして上演までの道筋を整えていたのかを知っているつもりで、その実全く理解していなかったのです。稽古場を用意する、チケットを印刷する、そんな簡単だと思っていた作業が途方もない重労働に感じました。苦しかった。せりふを覚えるより、予約の管理をしなければいけない。自分の衣装を探しに行くより前に、客演してくださる役者さんのケアをしなければならない。さまざまな焦りに気も狂わんばかりになり…。

 しかし、そのてんてこ舞いの最中に気付いたことも多くありました。当たり前に整っていた舞台がいかに多くの人の力が結集したものだったか。いかに恵まれていたか。今までのように安寧として役者に専念していては決して気付かなかったでしょう。表舞台に現れない縁の下の力持ちなくして舞台は成立しない。華やかな俳優たちを輝かせるのは制作者なのだと、今さらながら。それは、どんな社会の中でも共通して言えることかもしれません。一見誰でもできるような細々とした作業、心配りをしてくれる人がいるから、動ける人がいる。本当に重要な役割を果たしているのは誰なのか。自分は今までそういった方々にちゃんと感謝をしていたのか。公演が終わって思いを巡らせてみると、いかに自分が傲ごうまん慢に生きていたかが分かります。

 社会に何かを投げかける存在でありたい、何かを考えるきっかけになる時間を提供できるようになりたいと崇高な理想を掲げているものの、まだまだ未熟者でしかない私が今回の公演で学んだことは、こんなに当たり前のことでした。情けない。しかし、今後何かを生みだすには必要な一歩だったと10年後に思える日が来る。その時に理想とする舞台を作り上げることができているかどうかは分からないけれど、きっとそうであると信じて進んでいきたいと思いました。







(上毛新聞 2012年12月17日掲載)