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JR東日本高崎支社長  江藤 尚志 (高崎市田町)


【略歴】福岡県生まれ。成城大卒。1981年日本国有鉄道入社、JR東日本総務部課長、同次長、JR東日本リテールネット営業本部副本部長を経て2012年4月から現職。


日本の伝統



◎精神文化に立ち返ろう



 九州福岡県の南部、有明海に面した大牟田市は、私が高校を卒業するまで育った故郷だ。高度成長期の始まりのころ、皆一様に貧しかった。父は国鉄職員で仕事一筋。しかし、こと子育てには厳しかった。物心ついたころの記憶といえば、国民の祝日の朝、家の外壁にくくり付けた竹ざおを父と一緒にきれいに掃除し、日章旗を付けて家の庇(ひさし)から道路に向けて設置したこと。これは当時の一般家庭のごく当たり前の出来事であった。もちろん、隣近所の家も同じ。いつのころからであろうか、祝日に国旗を掲揚するという伝統的行為が行われなくなったのは。あのころは隣近所で声を掛けあって助け合い、貧しくとも自然を慈しみ、精神的にも満ち足りた日々を過ごしていた。

 両親への孝養・感謝、兄弟は仲良く、夫婦は助け合い、友人とは信じ合えるようにとの道徳教育を捨て去ってしまったことが、今日全国各地で問題になっている「いじめ」の根本的な問題ではと思う。日本で何かが変わってしまったと感じているのは私だけではあるまい。家庭の崩壊にとどまらず、教育現場の荒廃ぶりは目を覆いたくなる惨状だ。戦後の教育プログラムによって「日本人性」の改変が起きたのか。それとも、アメリカンデモクラシーの影響か。

 明治維新は突然起きたのではなく、300余りの諸藩が独自のやり方により、きっちりと人の徳(人徳)を教えていたという基盤があったからだ。それゆえ欧米列強による問答無用の開国をさせられた時も先人たちは頑張ることができたのだ。「よみ」「かき」「そろばん」「論語の素読」が教育の原点である。目で見て、口に出し、手で書き、耳で聞くという五感を使った基本動作は意義深い。島国日本、資源に乏しい日本、知恵とモノづくりで世界に冠たる日本。今こそ農耕民族の原点に戻るとき。土地を大事にし、家族を守り、風習・風俗を大切にし、先祖伝来のいい伝えを守り、日本語を大切にする。大仰な愛国心ではなく、素直にわが国を愛すること、それこそが全てである。

 先般亡くなった南アフリカ出身のマータイさんから「Mottainai(もったいない)」という日本語を逆に私たちは教えられた。文明国では消費することが全てにおいて優先され、新しいものを欲する傾向にある。この単語で、日本人の本来あるべき姿を再確認させられた。モノを大事に使い、壊れたら修理をして孫子の代まで引き継ぐという日本の古きよき伝統はどこにいってしまったか? 人間、何事も辛抱が大事。円高、環境コスト負担、少子高齢化、エネルギー供給不安等、生活環境は今後一層厳しくなることがあってもかつてのようなバブル経済は望むべくもない。このような今だからこそ、日本の伝統である精神文化に立ち返ろう。







(上毛新聞 2012年12月19日掲載)