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視点 オピニオン21
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yotacco―よたっこ―代表  黒沢 恒明 (上野村勝山)


【略歴】高崎商業高卒。2004年5月から約4年間、アメリカや欧州、アフリカなど44の国と地域を自転車で1人で周遊。10年5月にyotaccoを設立し現職。


暮らす場所



◎故郷の良さ旅で再確認



 私は県内の高校を卒業後、東京で数年間、資金作りをして、世界一周を目指し4年間無帰国の自転車旅行をしました。それは放浪の旅ではなく、目的地は故郷の上野村で、いわばかなり遠回りをしながら家に帰るという旅でした。

 その旅で感じたことは語り尽くせず、正直には言い表しづらいものもあります。しかし、明瞭に言えるのは、上野村が何と素晴らしい場所であるかをあらためて感じられたことです。村の中には見渡す限りの木があります。山にはそのまま飲むことができる清水が無数に湧き出ています。ただそれだけで、すごい。旅でもそんな場所は容易にはお目にかかれませんでした。

 旅の途中、例えばサハラ砂漠の真ん中で小さなオアシスに定住する人々と共に星空の下で眠りました。アマゾン河畔の水上住宅に住み自転車のようにカヌーを操る子どもたちなど、さまざまな人々の暮らしにもふれてきました。そして感じたのは、人の暮らしは全ての場所で皆違うが、人が生きるということは、どこにおいても全て同じではないかということです。

 なぜ私は上野村に帰って暮らそうと思ったのか。旅を終え、その理由もより明確になりました。人がその場所で暮らす理由とは、そこにさまざまな関係のある人がいるということ。私の場合は両親やお世話になった多くの人がいる場所が上野村であったということです。もしも旅の途中、さらに強い理由ができた場所があれば、そこが砂漠でも密林でも、私はそこで暮らすことになったかもしれません。

 私がいま上野村にいるのも、父親をはじめ周りの方々が「生きる意味は、その地域の人たちの役に立つことにある」と示してきた環境に影響を受けたことです。上野村はそんな気持ちが今も強く生きている場所です。

 帰国直後、私は残念ながら、日本は人々の心が貧しく寂しい場所であるとも強く感じました。物質的に豊かになった代わりに、人間としての元気さを失った社会。ラテンアメリカやアフリカ諸国で感じた人々の元気さや心の豊かさと比較すると、日本は経済的発展を最優先にしてきたつまらない国だと感じます。もちろん私たちを育ててくださった世代の方々を否定するわけではありません。ただ、人間の行き過ぎた欲がそうさせ、ひいては現在の農山村の衰退という事態も引き起こしていると考えます。

 村で生まれた若者の多くが村に残りません。仕事がないからとよく聞きます。私たち「よたっこ」は、この村で暮らしていくために、自分たちで仕事を生みだしていくことを目指しています。失われつつある地域の良さを見つめ直し、村内外の人々と交流していくことが、村での暮らしを豊かにするように思います。






(上毛新聞 2012年12月20日掲載)