無限の表情 尽きせぬ魅力 尾瀬国立公園
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 《守る生かす 尾瀬国立公園10年(1)》変化 大湿原保護へ岐路 温暖化とシカ食害 震災で維持費半減
2017/08/25掲載
 標高1400メートルに広がる本州最大の高層湿原。青々とした植物が表面を覆い、水のたまった池塘(ちとう)に空が映り込む―。都会を離れ、足を踏み入れたハイカーを静かに迎える尾瀬ケ原(片品村)。短い夏が、終わりに近づいている。
 40年以上にわたって尾瀬を撮影するカメラマン、新井幸人さん(64)=渋川市=は小型無人機「ドローン」を使った空撮に取り組んでいる。今年は春先から何度も現地に入り、上空からの風景を写真と動画で記録している。
 地上とは異なる眺望を得られるのが魅力だが、強風など天候が不安定だとドローンは飛ばせない。今年は8月に入って雨天が続き、突然の大雨が襲う日もあった。記録的な少雪が影響した昨年は、春を告げるミズバショウの見頃が前倒しになった。新井さんは「温暖化を思わせる近年の気候、シカによる食害で尾瀬の風景が確実に変わっているように思う」と受け止める。

 群馬、福島、栃木、新潟の4県にまたがる尾瀬国立公園。3万7千ヘクタールある全体面積のうち、4割を東京電力が保有している。環境負荷を抑え、多くの人が自然に触れ合えるよう尾瀬には総延長65キロの木道が整備され、およそ20キロを東電が敷設。東電の維持管理費は年間約2億円に上ったが、福島第1原発事故が発生した2011年以降、コスト削減が進んだ。
 木道には耐久性の高いカラマツを使用。交換目安は10年程度とされるが、東電が管理する鳩待峠―山の鼻ビジターセンター間などでは、表面が削れて劣化した木道が散在する。尾瀬を案内するガイドからは「傷みが目立つ部分が以前より増えた」という声も上がる。
 賠償問題に絡む財政難で事故直後、東電が尾瀬の土地売却を検討しているとの報道があった。関係自治体からの要望を受けて「売却説」を打ち消したが、木道の劣化度合いを精査するなどして、現状の維持費は約1億円まで半減している。
 片品川の最上流部に位置し、水力発電を展開する上で重要な水源地域。東電ホールディングスは「必要最低限の費用となるようコストダウンしているが、今後も入山者の安全確保に努めたい」としている。

 1996年度にピークの約65万人を記録した入山者は2016年度、約29万人まで落ち込んだ。受け皿となる山小屋の経営が立ち行かなくなれば、尾瀬を守る担い手が不足すると懸念されている。自然をどう守り、後世に引き継ぐか。尾瀬は今、岐路に立っている。
 山小屋は現在、尾瀬ケ原や尾瀬沼周辺など群馬、福島、新潟の3県に計21軒ある。日常的な見回り、ごみ拾い、木道の簡単な補修、外来植物の除去に取り組み、保護活動を支える。クマ出没や事故が起こりやすい場所の情報提供、遭難者の捜索にも協力する。
 「登山者を守ることが山小屋の一番の役割。尾瀬を安心して行ける場所にすることで、山小屋の利用にもつなげたい」。関根進・尾瀬山小屋組合長(72)は言葉に力を込めた。
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 貴重な動植物が生息し、「ラムサール条約湿地」として国際的に認められた尾瀬国立公園。ごみ持ち帰り運動が全国に先駆けて行われるなど「自然保護の原点」とも称される。2007年に日光国立公園から分離・独立して30日で10年となる。この間、尾瀬は何が変わり、どこへ向かうのか。現地を訪ね、課題を探った。

◎あの日の紙面
 福島第1原発事故の賠償金支払いをめぐる東京電力の資産売却で、一部の土地を保有する尾瀬国立公園も対象になる可能性が取りざたされていることを受け、26日に開かれた尾瀬国立公園協議会で、東電担当者が「現時点で尾瀬の売却を考えていない」と説明した。
(2011年5月27日付上毛新聞)