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中小企業ぐんま

誌上講演

【ビジネスモデル特許について】

羽鳥国際特許商標事務所 
所長  羽鳥 亘 氏
 ビジネスの仕組み(システム)に対して特許が認められる「ビジネスモデル特許」といわれるものが注目されています。羽鳥国際特許商標事務所所長の羽鳥亘先生に、ビジネスモデル特許をはじめとする知的所有権についてお話しを頂きました。

◆ ◆ ◆ ビジネスモデル特許の特徴 ◆ ◆ ◆

 最近、ビジネスモデル特許というものが注目されており、いたる所でビジネスモデル特許の話が盛んに行われています。しかし、実際には特許の範囲がわかりにくく、間違った認識をしている方も多いようです。ビジネスモデル特許は、商売のうまいやり方で特許が取れるのではなく、一般的にはコンピュータやインターネットを用いてシステム化されたビジネスの手法や仕組みに関する特許ということです。基本的には、特許の一種に過ぎず、昨今その中の一つのジャンルが注目されているというだけのことです。これには、最近のIT革命でコンピュータが急速に使用されるようになったことも背景として上げられます。新しい製品を作ったというように”物を作る”ということと、”コンピュータシステム上で新しいものを開発する”こととを同格に考えるようになったことで、このような特許が注目されてきているのではないでしょうか。
 具体的な例として、大日本印刷が平成十年に出願した「福引きシステム」という特許出願があります。これは何が特徴かというと、「福引きを行う商店街で頻繁に買い物をする人ほど当たり易くしよう」ということをシステムにし、それを特許出願したのです。この発明の詳細な説明としては「コンピュータを利用して、過去の抽選結果を当選確率に反映させるようにした福引きシステム」ということです。特許というのは漠然としたアイデアで取れるのではなく、その具体的なやり方が特許出願の対象になるのです。今までの福引きは当たる確率が変わることはありませんでしたが、このシステムでは、商店街で発行したポイントカードを福引きの際に提示することにより、商店街をたくさん利用した人や過去の抽選落選回数が多い人ほど当たる確率が高くなるようになっています。即ち、福引きに関する全ての特許が取れるのでは
なく、あくまで具体的なコンピュータのシステム自体がひとつの特許の対象として認められるのです。これがビジネスモデル特許の特徴なのです。

◆ ◆ ◆ 知的所有権とは ◆ ◆ ◆

 現在では、一年間に特許や商標が約四十万件出願されています。本県では年間約二千件ほどですが、そのうち県内の大手企業五社で約千件を占めるので、一般の中小企業等のカウントは年間千件ほどというのが現状です。ビジネスモデル特許に関しては、実際の出願はまだそれほど多く行われているわけではありませんが、全体に関心も高く、問い合わせも多くなっています。
 ところで、特許、実用新案、意匠、商標の四つを総称して知的所有権と呼んでいますが、これらは特許庁に対して申請の手続きをしなければ権利が発生しません。そして、その特徴は、目に見えない技術や名前などを保護するということです。人間が頭の中で想像したものを法律的に保護するのが知的所有権です。
 「特許」というのは、簡単に言うと非常に難しい大発明ということです。例えばビジネスモデル特許もそうですし、コンピュータを利用した装置や電気的な回路、そういう非常に難しい発明が特許です。この中には、食品の作り方の特許なども含まれます。そして、出願日から最長で二十年間権利が縦続するということも特徴です。
 「実用新案」は、いわゆる小発明といわれる、ちょっとした物の改良品等です。これは出願の日から六年間有効です。尚、平成七年から法律が変わり、実用新案は特許庁で一切審査をしないという制度になりました。特許は特許庁で調査・判断して登録するのですが、実用新案は判断しないで通すことから、私どもは実用新案を「ハツタリ権」と呼んでいます。それくらい実質的な意味が薄れてしまっているのです。現在、特許出願が年間約三十万件くらいあるのに対して、実用新案は年間一万件ほどとなつています。
 また、「意匠」は、製品の新しいデザインや形などを保護するもので、十五年間有効です。さらに、「商標」は、いわゆるマークといわれるもので、これは登録から十年間有効で、使用していれば十年ごとに更新ができ、ずっと権利を主張することもできます。
 したがって、特許、実用新案、意匠、商標と分かれていますが、一つの製品を開発した場合、いろいろな面から見てどれを利用したらいいかを考え、複数の適用によって保護していくのが一般的です。例えば、新しい製品を考えた湯合、製品の中身の構造的な物が新しければ特許出願をし、ちょっとした工夫がある場合はその部分について実用新案の申請をし、製品の外観の形を保護していくために意匠出願し、名前を付けたらそれを商標出願して保護します。このように、一つの製品を多方面から見て商品が他の人に真似されないように保護していくというのが知的所有権なのです。

◆ ◆ ◆ 知的所有権で経済活性化 ◆ ◆ ◆

 費用の話ですが、特許の場合、先ず専門家に特許出願を依頼する際に約二十五万円、審査請求に約九万円、特許庁から出された拒絶理由に対して反論する際に約十五万円かかり、登録時にも税金を十五万円ほど払うので、一つの特許に六十万円前後かかります。実用新案は、出願イコール登録ですので二十五万円程度で出願・登録になります。意匠登録は、出願に約十五万円、登録時に同じくらいかかるのでだいたい三十万円です。商標は、出願の際に約八万円、登録時に約十二万円ですので、約二十万円かけると十年間有効になります。
 個人の方がよく「特許で儲けよう」などといいますが、やめた方が良いと思います。それだけの費用をかけるだけの価値があるとは思えません。ただ企業にとっては話が違います。登録はもちろん、出願するだけでも価値があります。中小企業にとっては、自分の企業の保険ということを考えた場合にも出したほうが懸命だと思います。企業が一つの製品を開発するために何千万というお金をかけるのに、なぜ二十万や三十万円のお金をケチるのか。車に乗る際には自動車保険に加入するのと同じで、保険だと思って積極的に出していかないと後で痛い目に遭うということも知的所有権の特徴です。
 また、企業内で新しいシステムを始める場合、それがビジネスモデル特許のような知的所有権として成立すれば大きなメリットとなり、戦略として活用することもできます。ですから、新しいことを始める時は、常に調査をしておくことが必要となってきます。
 知的所有権というのはある面で戦争です。自社を守るにはやはり攻撃の材料がなければなりません。他社がたくさん知的所有権を持っているのに自社でとらないというわけにはいきません。ですから、従来のままの発想でいる企業は、今後淘汰されていくのではないでしょうか。最近、「ITに対して関心のない企業はおいて行かれる」とよく言われますが、法律の面でも同じ事が言えると思います。法律の世界では「知らなかった」では通用しません。企業が知的所有権に関心を持ち積極的に取り入れていくことが、経済の活性化にもつながっていくのではないかと考えます。