◎薄れる記憶
赤岩地区は養蚕とともに歩んできた。ところが現在、養蚕農家は一軒もない。桑畑は消え、蚕具は蔵の奥にしまわれて久しい。養蚕にまつわる人々の記憶さえ消えかかっている。蚕具の展示場は、観光客に養蚕を紹介するためだけでなく、住民自身が歴史を伝えていくためにも必要だった。
篠原さんは昨年3月、村から「2階の蚕室を、展示場用に貸してもらえないか」と依頼された。一人暮らし。2階に見ず知らずの人が出入りすることに不安もあったが、「村のため。養蚕を伝えるため。やってみよう」と、蚕室の提供を決めた。
篠原さん自身は養蚕をやめて30年近くになる。再び養蚕をすることはないと思っていたが、蚕具は大事に保存していた。回転まぶしや繭のけば取り器などを、展示用に提供した。
完成した展示場を眺め、篠原さんはしみじみ語る。「懐かしいねえ。養蚕はもう歴史なんだね。でも、ずっと伝えていきたいね」。赤岩の養蚕の隆盛期を知る蚕具が、地域の歴史を語り継いでいく。 |