上毛新聞社「21世紀のシルクカントリー群馬」キャンペーン

シルクカントリー群馬
Silkcountry Gunma21
シルクカントリー群馬イメージ

《伝統産業の息吹くっきり 「シルクカントリーin桐生」》
 重伝建選定へ一丸
掲載日・2009/02/17
 優れた織物の技術が保存される桐生には、栄華を誇った江戸から昭和にかけての織物産業の息吹が古い建物やのこぎり屋根工場などにくっきりと残っている。その土地で今、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)の選定を目指す動きとともに、遺産を核にしたまちづくりへの関心が高まっている。

にぎわいを見せる買場紗綾市
にぎわいを見せる買場紗綾市

◎「財産」周知へ紗綾市 本町一、二丁目
 江戸から昭和にかけての住居や商家、蔵、織物工場跡などが残る桐生市本町一、二丁目。桐生天満宮に近い一丁目の通称「買い場通り」で毎月第一土曜日、買場紗綾市(かいばさやいち)が開かれる。毎回、繊維製品などを扱う三十店が並び、市内外からのファンでにぎわっている。
 一九九三年度、本町一、二丁目で市伝統的建造物群(伝建)調査が行われた。これを受け、地元の本一・本二まちづくりの会が、「古い建物は財産」を周知するためにと九六年から始めたのが紗綾市だった。

会話を楽しみながら買い物をする人たち
会話を楽しみながら買い物をする人たち

◎歯車が始動
 地道な活動が続けられるなか、昨年、伝建をめぐる大きな進展があった。九月に市が伝建保存条例を制定。本町一、二丁目を対象に市の伝建指定や全国の伝建エリアから国が選ぶ重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に向けた法律上の手続きを整えたのだ。
 同まちづくりの会会長の森寿作さん(68)は「地域住民の意識も、市の対応も、伝建に向けて歯車が大きく回り始めた。この機運を大切に盛り上げていきたい」と意気込みを語る。
 条例制定に先立ち、長岡造形大と東京大が昨春から今年一月にかけ、地区内の全四百戸の調査を進めた。東京大は市の九三年度調査の対象だった四十戸をあらためて対象にしたほか、長岡造形大は井戸、祠(ほこら)、樹木や塀などの周辺環境を調べた。

お召しに用いる強撚糸を作る八丁撚糸機=森秀織物
お召しに用いる強撚糸を作る八丁撚糸機=森秀織物

◎波及効果
 最新の成果は、地元住民や学識経験者らで組織する本町一、二丁目地区建造物群保存対策調査委員会で取り上げられ、地区の保存に向けた基本方針などに生かされるという。
 今後は、新年度に保存条例に沿って地元関係者や学識経験者、行政関係者などの委員で作る伝建保存審議会を設置。同審議会は対象地区の将来像や保存エリア、保存計画などの原案を作り、二〇一〇年度早々に亀山豊文市長に答申する。
 同年度には市都市計画決定を経て、市伝建指定を行い、並行して文化庁に重伝建地区の選定を申し立てることになる。重伝建の選定は二〇一〇年十二月を目指す。
 江戸時代から代々薬店を営み、同調査委員会会長を務める第一区長の玉上常雄さん(73)は期待を込めて語る。
 「古い建物が残る桐生で伝建を推進することは、市にとって良いこと。地域に勇気を与え、さまざまな波及効果がある」
◎まちのシンボル200棟 のこぎり屋根
 織物のまちのシンボルとも言える「のこぎり屋根」。桐生市内には工場跡を含めて二百棟以上が残り、有数の集積地となっている。
 精緻な柄を織り込む織物工場内は、季節に関係なく、安定した均一の光量を保つ必要があった。北側からのやわらかな光を取り込めるのこぎり屋根は、織物のまちを支えてきた知恵の結晶なのだ。
 同市東の後藤織物では、三連ののこぎり屋根工場で、緯錦(よこにしき)織の色鮮やかな帯を織る。二〇〇六年三月には、工場を含む主屋などが国の登録有形文化財の指定を受けた。
◎再び注目
 現役の織物工場以外にも、美容室、料理店、洋菓子店、アーティストの工房などに活用されている。同屋根工場の保存活用が推奨される中、本来の機屋としての同工場が産業遺産として再び注目され始めた。
 ジャカード織機の普及した桐生では、染めた糸で柄を作り出す「先染め紋織り」が発達、京都・西陣と並ぶ多品種の完成品産地として独特の発展を遂げてきた。
 和装の世界では、桐生織が国の定めた伝統的工芸品の一つに認定されている。江戸時代以前の技術技法と絹を用いることを条件に、お召し織、緯錦織、経錦(たてにしき)織、風通(ふうつう)織、浮経(うきたて)織、経絣(たてがすり)紋織、綟(もじり)織の七技法を伝える。
◎ブランド化
 また、柄を織り出す紋織り技術は平織りでは織れない布地を生みだし、桐生ではぐくまれた先染め紋織りの技術が洋装の世界でも、桐生独自の布地を織り出している。
 技術力が高く、流行を製品化してきたため、桐生には「これが桐生の織物」というブランド品が見当たらない。桐生織物協同組合はブランド化を目指し、二〇〇八年初頭には、地域名と商品名を組み合わせて商標登録できる地域ブランド「桐生織」が認定された。桐生地域に由来する製法の着物、帯や洋服生地、ネクタイなどを今後、桐生織で売り出していく。
 後藤織物社長で同組合理事長でもある後藤隆造さん(71)は「のこぎり屋根が注目され、保存活用を進めることは桐生織をアピールするチャンスでもある」と展望している。
◎重要伝統的建造物群保存地区
 歴史ある建物と町並みについて、自治体の指定した伝統的建造物群保存地区の中から国が選定する。文化財保護法の改正で一九七五年に制度化され、選定された地区を実生活に即して、そのまま保存する取り組みを援護する施策の一つ。選定を受けると、対象となる建物の修理などに対して、国の補助が受けられる。本県では二〇〇六年七月に養蚕農家などの建物が残る六合村赤岩地区が選定された。

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