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基調講演で「世界遺産―地域と世界をつなぐ」と題して講演したブンバルさん
基調講演で「世界遺産―地域と世界をつなぐ」と題して講演したブンバルさん

富岡製糸場と絹産業遺産群 国際シンポ 世界遺産への戦略指導
掲載日2010/12/04

資産の関連考えて ブンバルさん
説得力ある言葉で フェジャルディさん
「全体で一つ」示せ プレイテさん
国際的努力見える 毛さん

 前橋市で先月開かれた「富岡製糸場と絹産業遺産群国際シンポジウム」(県、文化庁主催)では、本登録に影響力を持つ国際記念物遺跡会議(イコモス)関係者らが本県の絹産業遺産群について世界レベルの価値を認めた上で、推薦書作成に向けた戦略をアドバイスした。より具体的な意見が交わされたパネルディスカッションの模様を紹介する。

 岡田: 現地視察では世界遺産候補に検討している7カ所を巡っていただいた。ご覧になった印象は。
 フェジャルディ: 富岡製糸場は大きい上に革命的な発明が行われ、複合的に見て素晴らしい建築物だった。日本の伝統を加味しながら輸入された技術が取り入れられている。ほかの遺産群も多様性に富んでいた。
 プレイテ: 製糸場の建築美に大変感銘を受けた。世界遺産リストに記載された欧州の産業建築物と比べても同じレベルだと思う。群馬県の絹遺産はこの空間で生活していた人たちのモデルであり、さまざまな活動を組み合わせた複合体を表している。
 岡田: 富岡製糸場を中心とした絹産業の評価については。
 毛: 日本が外国と頻繁に交流したことを示している。製糸場はフランスの技師によって造られたがすぐに日本人が自らの技術で開発し、製糸技術を輸出するようになり、関連する養蚕などにも伝でん播ぱした。国際的な努力で絹を作る技術を磨いたことがよく見て取れる。今回、日本の絹産業が美しい自然と文明の中でどう育まれたかを見られて光栄だった。養蚕と製糸が今でも行われていることは興味深かった。
 ブンバル: 伝統とイノベーション、そして新しい手段や市場とのつながりを見ることができた。一つ質問だが、遺産群を連続するものとしてとらえているのか。各資産は関連付けられてはいるが、推薦書を書くときに考えなければいけない。
 岡田: 複数の資産で登録する場合は同種のものを積み重ねるのが通常だが、群馬県の場合はそれぞれの質がかなり違う。その点をどう考えるか。
 フェジャルディ: 一番の問題は「顕著な普遍的価値」(OUV)の証明だが、製糸場と遺産群に関しては「相互補完性」をOUVとして指摘するのはとても大事だ。言葉の問題も重要で、価値がありますと言うだけでは不十分。説得力のある“ユネスコ語”で書かなければ理解されない。
 プレイテ: 遺産群の一部はOUVがないかもしれないが、まとめればOUVを持てる。もっと広い文脈で考え、全体で一つのシステムであると示せれば困難をチャンスに変えることができる。
 ブンバル: 個人的な意見だが、一番主要な要素に絞るという挑戦もある。世界遺産登録は物事の順番をきっちり決め、一番効率よくインパクトを与えるのが大事。日本の近代的な経済や交流といったもっと大きな文脈の中で見るべきだ。
【パネリスト】
▽イコモス・カナダ会長、元国際イコモス事務局長 ディヌ・ブンバルさん
▽イコモス・ハンガリー事務局長 タマシュ・フェジャルディさん
▽国際産業遺産保存委員会理事 マッシモ・プレイテさん
▽清華大歴史研究所助教授 毛傳慧さん
【コーディネーター】
▽県世界遺産学術委員会委員長 岡田保良さん

◎多面的に歴史再考を
 世界遺産候補について県は9月、構成資産10カ所のうち4カ所を対象外にして検討を進めると発表。今年2月以来となる海外専門家の来県にあたり、国史跡を目指す伊勢崎市の大型養蚕家屋を加えた7カ所を議論のテーブルに載せた。国際的に評価の高い旧官営富岡製糸場とほかの遺産群をどう位置づけ、本登録の基本条件「顕著な普遍的価値」(OUV)をいかに分かりやすく証明するか―。今回の会議とシンポジウムでその道筋が見えたと言える。
 県はこれまで「蚕糸業の発展が日本の近代化をもたらした」点に価値を見いだしていたが、会議では専門家から世界的な技術交流を重視する意見が相次いだという。フランスと日本の技術融合、生糸生産の増大に伴うアメリカへの大量輸出、さらに繰糸機の改良と中国への輸出。これほど大きな世界規模の交流は絹産業をおいてほかになく、世界遺産委員会でかなりのインパクトを与えられるだろう。
 また、養蚕、製糸、輸送といったかなり質の異なる構成資産の関連付けを強化するため、「相互補完性」を示すことも提案された。生糸の大量輸出には品質の良い原料の確保、つまり養蚕の技術革新が不可欠で、高山社跡(藤岡市)の例で言えば教育機関として全国的な技術向上に貢献した―という考え方だ。
 遺産群の価値を明確にした上で、タマシュ・フェジャルディさんが“ユネスコ語”と述べたように、推薦書の書き方には十分注意を払わなければいけない。イコモスに登録延期を勧告されたが「緑の鉱山」という強力なメッセージを打ち出して“逆転勝ち”を収めた石見銀山(島根県)、ストーリーの根幹をなす「浄土思想」の理解が浸透せず登録延期とされた平泉の文化遺産(岩手県)の例を見ても、各国委員を納得させる論理展開や慎重な言葉選びが必要となる。
 昨年7月に県世界遺産学術委員会が発足して1年4カ月、推薦書作成はこれから総仕上げの段階を迎える。県は来年度にも専門家を招き、引き続き国際舞台に遺産群をアピールしていく予定だ。今回、専門家から絹遺産をめぐる世界的な視点が示されたことは、これまで以上に幅広く多面的な観点から本県の絹の歴史を再考する必要が出てきたと言えよう。こうした成果を踏まえ、行政も市民も一段と成熟した議論と活動を展開することが求められている。

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