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利根川源流に近い奥利根湖でのアウトドアは途方もなく楽しいと聞いた。群馬の一角にありながら"リトルカナダ"の異名をとる奥利根湖の魅力に触れて、都会生 活のあかを洗い落として再生したいと思った。奥利根の達人にして秘境の番人、高柳盛芳さん(52=通称モリさん)にガイドをお願いし、奥利根湖へ出掛けた。(ライター・磯尚義)
「風を切る」を知る
5月、奥利根に遅い春が訪れる。
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| 「山の天気は変わりやすい。決して甘く見ないこと」と語るモリさん |
奥利根湖は、利根川水系最北端にして最も巨大な矢木沢ダムによってできたダム湖だが、そこには天然としか思えないとびっきりのパラダイスがあった。
水上温泉街から車で小1時間。突如として現れる圧倒的な高さのダムに言葉を失う。ダムサイトからの光景は「雄大!」としか言いようがない。
「おれの人生、半分以上はここにうずめた」
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| 「山の天気は変わりやすい。決して甘く見ないこと」と語るモリさん |
ガイドの高柳盛芳さん(以下「モリ」さん)は、湖を指して語る。
「奥利根湖は、おれにとってパラダイス。ここでの遊びは本当に楽しいし、かあちゃんよりも好きなくらいだね(笑)」
大自然をバックに豪快に笑い飛ばすモリさん。その運転でモーターボートに乗せてもらい、奥利根湖に挑んだ。
今シーズンでボートのエンジンを動かすのは初めてというが、岸を離れてほどなく全開になる。湖上を時速50kmで走行する感覚は、言葉では表現しづらい。まだ雪の残る上越国境の山々に向かって飛び込んでいくようだ。えもいわれぬ爽快感に体が震える。「風を切る」とはまさにこのことだ。
岸が見えなくなるほど奥へ進むとV字型の奥利根湖は右ルートと左ルートに分岐する。水系が異なるのだ。まず左側へ進む。
釣れなくたって楽しい
「どうだ、すごい風景だろ。リトルカナダって呼ばれてるんだよ」
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| 釣りは魚との駆け引きを楽しむ。ゲームだから、必要以上に釣れたときは逃がすのが原則だ |
深緑色にきらめく湖面と、残雪の解け切らない湖を囲む山々。雪解け水が流れ込んだたっぷりとした水かさ。人造湖ではあるが、その自然、そのスケールに圧倒される。前橋ICから約2時間で、これほどの自然環境にたどり着けるという事実に驚きを覚えた。
「ちょっと遊ぶよ」そう言ってモリさんは、ボートのエンジンを切り、さおを取り出した。モリさんは普段ネーチャーガイド・釣りガイドとしても活動している。釣りは子供のころから生活の一部という。
モリさんの釣りスタイルは擬似餌で釣るルアーフィッシング。ボートで移動しながらのトローリングよりも、エンジンを止めて釣るキャスティングを好む。奥利根湖は主にサクラマスやイワナが釣れる。最近はコクチバスなど外来魚の影響で数が減少しつつあり、憂慮している。
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| モリさんは山菜も採る。だが、必要な分を少しだけ、が基本。1本丸々取り尽くしてしまうマナーの悪い人が多いと嘆く。そのため枯れてしまう木も多い |
「ゆったりと静かだろ。聞こえるのは鳥たちのさえずりだけ。『ここだ!』と思ったポイントにルアーを投げて、釣れればハッピー、釣れなくてもオッケー。ここで遊んでれば、ストレスなんてすぐに吹き飛んじゃう」
思わず「釣りができなくても、ここにこうしているだけで最高ですね」と返すと、「それが『感性』っていうものなんだよ!」と叫ぶ。
自分の好きなことで生活したい
奥利根湖の右サイドが利根川の源流方面だ。こちらは奥が深く、ダムサイト地点から最奥部までは約9ある。深くかつ複雑に入り組んだ地形をした奥利根湖には、数多くの沢が流れ込んでいる。
釣りと奥利根に夢中になったモリさんはこうした無数の沢や渓流を5年間にわたって探索し尽くし、イワナやサクラマスが潜んでいるポイントを頭にたたき込んだという。
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| 釣りのシーズンが終わると猟の季節が始まる。モリさんはクマやシカを狙うハンターでもある |
その経験を基にネーチャーガイド・釣りガイドとして独立したのが32歳の時。10年ほどの間、生活は決して楽ではなかったが、良い仲間たちに恵まれたこと、当時まだ先駆的だった釣りガイドという仕事が口コミによって徐々に認知されるようになったこともあり、これまで雑誌やTVなどのメディアに度々取り上げられている。
「家族には迷惑掛けたね。日本には釣りガイド、ネーチャーガイドなんてものはまだ存在していなかった。自然や釣り、そして奥利根と一体化した生活をどうしても送りたかったんだ」
楽しみ方に決まりはない
モリさんは、自然ガイドとして奥利根での釣りやキャンプを指南することもあるし、ネーチャー・スクールを開催することもある。奥利根の楽しみ方を聞いた。
「決まったルールなんてないよ。ボートに乗って釣りに夢中になるのもいいけれど、何もしないでただボーッとしてたっていい。キャンプなら河原でたき火をしつつ星を眺めるのもいいし。ここにいれば携帯電話も鳴らない、車の音も聞こえない。『フィトンチッド』って知ってるかい? 森林の中にいれば体はリフレッシュするし、自律神経も正常になる。いるだけでいい、っていうのはそういうことさ」
モリさんが開くネーチャースクールには、多様な人たちが参加する。川の水で飯盒炊飯し、釣れた魚を食す。そこでは男も女も職業も地位も関係なくただの人間として触れ合うという。
早朝肌寒かった空気が温んできたと思ったら、もう正午を回っている。時間が経つのが速い。あっという間の奥利根湖クルージングだった。
「時間が経つの忘れちゃうんだよな。気が付くと1週間くらい家に帰らないことなんてよくあるね。『矢木沢ホームレス』って呼ばれてるんだよ(笑)」。
フィトンチッド
樹木から放散されて周囲の病原菌などの微生物を殺す働きを持つ物質。樹木の香気成分であるテルペン類がこれに相当すると考えられ、森林浴の効能の源とされる。1930年ごろソ連のボリス・トーキンにより提唱された。
高柳盛芳 Takayanagi Moriyoshi
1954(昭和29)年みなかみ町生まれ、みなかみ町育ち。自動車整備士・バーテンダー・調理師などを経て現在のボートショップ・奥利根マリンサービスを始める。釣りの仲間で立ち上げた「奥利根の自然を愛する矢木沢会」は奥利根周辺のごみ拾いを行う会。著書に『モリさんの野遊び作法』(小学館)。奥利根マリンサービス(利根郡みなかみ町高日向448-1)は
TEL・FAX 0278・72・3911。 http://park8.wakwak.com/~okutone/
ほかにも目白押し奥利根周辺、夏のアウトドア
●ラフティング
ボートで激流を下る手に汗握るアウトドアスポーツ。利根川上流部には水上峡、諏訪峡など美しいスポットが目白押し。
●カヌー
モーターボートを運転できなくても、カヌーがあれば奥利根湖の魅力を堪能することができる。のんびりと大自然を満喫してみたい。
●キャニオニング
新しい沢遊び。ロープを伝って滝を降りたり、滝つぼめがけて飛び込んだり、天然のウオータースライダーのように滑らかな岩の上を滑って遊んだりするアウトドアスポーツ。
●パラグライダー
奥利根には水をテーマにした以外にも多くのアウトドアスポーツを楽しめるが、パラグライダーはその代表格。大空を羽ばたく爽快感は、パラグライダーならではの素晴らしい体験。
●マウンテンバイク
奥利根の自然を激しく満喫したい人には、マウンテンバイクもお薦め。大自然を肌で感じられる。
●キャンプ
奥利根の大自然を静かに味わいたい人にはキャンプ。奈良俣ダムにはオートキャンプ場が併設されている。矢木沢ダム周辺でのキャンプは指定地で。
●トレッキング
谷川岳の一ノ倉沢をトレッキングするのもいいだろう。天然ミネラルが豊富な沢の水で疲れた体が生き返る。「トレッキングはちょっと」という人は、奥利根水源の森でのんびりとネーチャーウオッチングしてみては。
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