沙 萠 写 房 ・ 炉 辺 談


キ ノ コ の 話 し

 今回は、海岸を散歩しながらタコを見つける方法などを書く予定でしたが、夏も過ぎたことですし、タコの話しばかりじゃ、みなさんも飽きるでしょうから、いまの季節にあわせてキノコの話しを書くことにしました。
 キノコの話しといっても、種類のことや料理のことではありません。あのキノコから出てくる胞子の話しです。
 キノコの本体が「菌」であることは、ご存じと思います。朽ち木の皮などを剥がすと、カビのような菌糸が這っていることがありますが、あれが、キノコの本体です。わたしたちがキノコと呼んでいるのは、その菌が生長して、繁殖用の胞子をまき散らすときにつくる道具で、まあ言ってみれば、カビの花ということになります。
 というわけで、どんなキノコでも胞子をまき散らしますが、真っ白な網のようなキヌガサタケとか、赤い筆のようなキツネのエフデなどのように、胞子が泥のようにべとついていて、その臭い匂いに集まってくるハエの足についてはこばれるのもあります。
 シイタケやシメジ、マツタケのような傘型のキノコや、サルノコシカケのような腰掛け型のキノコは、みんな胞子をまき散らしています。
 榾木(ほだぎ)についたままのシイタケが手に入るのなら最高ですが、そんなものが無くても、スーパーマーケットで買ったシメジでも、胞子が散る光景を見ることができます。でも、見るのには、ちょっとだけ苦労をしなくてはなりません。
 胞子は、キノコが元気なあいだじゅう、昼も夜も絶え間なく出ているのですが、まわりが明るいと見えません。夜、バックが暗い所にキノコを置いて、室内を暗くして、キノコの後ろから照明を当てると、はっきり見えてきます。
 胞子が見えるか見えないかは、この後ろから当てる照明の位置、ただそれだけです。ほかにムツカシイことは、なにもありません。
 これからは、庭にでも、植木鉢にでも、キノコが出てくる季節です。そのキノコを、その場所で見にくいのでしたら、掘って室内に持ち込んでも見ることができます。
 天空の天の川のように、また煙のように胞子が漂う光景を見たら、あなたの心は、幽玄の世界に誘い込まれると思いますが、くれぐれも、寝不足になならないように!

【バックナンバー】

 No.1 沙萠写房の炉端からの便り
 No.2 タケノコの節の数
 No.3 タコの話−タコのけんか
 NO.4 タコの話−タコつぼの変化


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